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書籍 サービスデザイン
アフターデジタルセッションズ 最先端の33人が語る、世界標準のコンセンサス - L&UX2021

アフターデジタルセッションズ 最先端の33人が語る、世界標準のコンセンサス - L&UX2021

藤井 保文

2021年5月に開催されたUX/DXのオンラインフェス、「L&UX2021」。

出版社 日経BP
出版年 2021年
カテゴリ サービスデザイン
ISBN 978-4296110414

書籍概要

DXの本質は「デジタル化」ではなく「顧客体験の再構築」にある。2021年に開催されたUX/DXの祭典「L&UX2021」で、世界と日本の最先端実践者33人が語った知見を凝縮した一冊です。

イノベーターへの視点

  1. DXの目的はUXの再定義である テクノロジーの導入自体がゴールではない。デジタルを手段として、顧客にとっての価値ある体験を創り出すことがDXの本質であり、世界のリーディングカンパニーに共通する認識。

  2. オンラインとオフラインの融合設計 オンラインが当たり前になった時代に、オフラインの体験をどう組み合わせるか。顧客接点のすべてをシームレスに設計する思想と、それを実現した企業の具体的手法。

  3. 日本企業のアフターデジタル戦略 世界標準のコンセンサスを踏まえた上で、日本の先鋭リーダーたちがいかにUX起点の変革を実践しているか。日本企業が取り組むべき具体的な方向性を示す。


徹底分析:『アフターデジタルセッションズ 最先端の33人が語る、世界標準のコンセンサス - L&UX2021』

要約(Abstract)

本書は、2021年5月にビービット社が主催したUX/DXオンラインフェス「L&UX2021(Liberty & UX Intelligence)」の全セッションを書籍化したものである。Go-Jek、DiDi、Tencent、MaaS Globalなど 世界各国のリーディング企業の実践者33人 が登壇し、「DXの目的はUXの再定義である」という命題を多角的に検証した。アフターデジタルシリーズ(累計21万部超)の思想的延長線上に位置し、藤井保文氏自身が「いわば『アフターデジタル3』」と位置づける。OMO(Online Merges with Offline)を軸に、テクノロジーを手段として 顧客体験を根本から再構築する方法論 を、理論と実践の両面から提示している。経済産業省の「2025年の崖」問題が現実味を帯びるなかで、日本企業のDX推進に対する具体的な処方箋を示した重要文献といえる。

1. 核心テーゼ(内部構造)

1-1. 「DX=UXの再定義」という転倒

本書の根幹をなすのは、 DXの目的を「デジタル化」から「顧客体験の再定義」へ転倒させる 主張である。日本企業の多くがDXを業務効率化やコスト削減の手段として捉えているのに対し、本書の登壇者たちは一様に「体験価値の創出」こそがDXの本質だと語る。

この転倒は、Stolterman & Fors(2004)がデジタルトランスフォーメーションを「デジタル技術が人間生活のあらゆる側面に引き起こす変化」と定義した学術的枠組みとも整合する。単なる技術導入ではなく、 人間の生活様式そのものの変容 を視野に入れている点が重要である。

1-2. OMOの実装原理

李開復(Kai-Fu Lee)が2017年に提唱したOMO概念を、本書は実装レベルにまで具体化している。OMO実現の4条件として、スマートフォンの普及、モバイル決済の浸透、高品質センサーの低価格化、AIの進化が挙げられる。

本書の独自性は、これらの条件を 企業の顧客接点設計に落とし込むフレームワーク として提示した点にある。オフラインの存在を否定するのではなく、デジタルを「当たり前のインフラ」として前提にしたうえで、リアルの価値をどう再設計するかという問いを立てている。

1-3. グローバル・コンセンサスの可視化

33人の登壇者が国籍・業種を超えて 同一の方向性を示した ことが、本書の最大の説得力となっている。Go-JekのAbhinit Tiwari、DiDiのCheng Feng、TencentのEnya Chanなど、アジア圏のスーパーアプリ企業から、北欧のMaaS Globalまで、「UX起点のDX」が地域差を超えたグローバル・コンセンサスであることを実証した。

この「コンセンサスの可視化」は、社内でDX推進の説得材料を必要とする ミドルマネジメント層への訴求力 が極めて高い構成である。

2. 批判的分析(外部批評)

本書に対する主要な批判は3点に集約される。第一に、 中国・東南アジアの先進事例への依存度が高く、規制環境やデータプライバシーの異なる日本市場への直接適用には慎重な検討が必要である。McKinseyの日本DX調査(2020)でも、日本企業の経営者の3分の2がDX推進の準備が整っていないと回答しており、組織的障壁への処方箋が不足している。

第二に、BCGの調査が示すように DXの70%が失敗する 主因は従業員のエンゲージメント不足と実装段階での抵抗であり、本書が描くUXビジョンと現場の実行力のギャップをどう埋めるかという論点が弱い。

第三に、カンファレンスの書籍化という形式上、各セッションが 断片的な知見の集積 にとどまり、体系的な方法論としての統合が十分とはいえない。この点は同シリーズの『UXグロースモデル』(2021年、藤井・小城・佐藤共著)で補完されているものの、本書単体では実践のロードマップが見えにくい。

3. 比較分析(ポジショニング)

3-1. 『アフターデジタル』初作(2019年)との比較

藤井保文・尾原和啓の共著である初作が「OMOという概念の紹介」に主眼を置いたのに対し、本書は 世界33人の実践者による「概念の実証」 へと進化している。初作が8.5万部で提示した仮説を、グローバルな実践知で裏づける構造をとっている。

3-2. 『UXグロースモデル』(2021年)との補完関係

同時期に刊行された『UXグロースモデル』がトップダウン型・ボトムアップ型のUX改善方法論を体系化したのに対し、本書は 「なぜそうすべきか」の思想的根拠 を多声的に提供する。両書を併読することで、理念と実践が接続される設計となっている。

3-3. 海外文献との位置づけ

Verhoef et al.(2021)の”Digital Transformation: A Multidisciplinary Reflection and Research Agenda”が学術的にDXを整理したのに対し、本書は 実務者の声を通じた帰納的アプローチ で同じ結論に到達している。学術的厳密性では劣るが、企業の意思決定者にとっての実感値と説得力では優位に立つ。

4. 学術的検証(科学的根拠)

本書の「OMO」概念は、学術的にも検証が進んでいる。Sustainability誌(2021年)に掲載されたLi et al.の研究は、コロナ後のOMO学習環境について空間設計・技術・教育学の3次元で分析し、 オンラインとオフラインの融合が学習成果を向上させる ことを実証した。

Asia Pacific Business Review(2021年)に掲載されたChen & Linの研究は、中国企業のOMOマーケティングにおける共有価値の視点を分析し、OMO戦略が 顧客エンゲージメントとサステナビリティの双方に寄与する ことを示した。

また、Springer(2022年)のHuang et al.の研究は、OMO教育の成功要因を包括的にモデル化し、テクノロジーの導入だけでなく 組織文化と利用者体験の設計が成否を決定する と結論づけている。これは本書の「UXこそがDXの目的」という主張と直接的に整合する知見である。

5. 実践的示唆とケーススタディ

5-1. 平安保険(Ping An)— OMOの原型

本書でも言及される平安保険は、2014年に「平安好医生」アプリをリリースし、 2億人超のユーザー を獲得した。健康相談から保険提案への導線設計は、OMO戦略の最も成功した実装例である。2017年から2019年にかけて市場評価額は倍増し、純利益は前年比39%増を記録した。顧客データの蓄積と活用が保険という無形商材の価値を可視化した好例といえる。

5-2. トヨタ KINTO — 日本型OMOの挑戦

トヨタのサブスクリプションサービス「KINTO」は、2019年の約1,200件から2022年には 累計55,000件 まで申込数が拡大した。申込者の約4割を20〜30代が占め、従来のディーラーモデルでは接点を持てなかった層を獲得している。2021年4月にはモビリティマーケットを開設し、MaaSへと事業領域を拡張した。

5-3. 丸井グループ — 「売らない店」のUX変革

丸井グループは「売らない店」を標榜し、 店舗を「体験の場」に再定義 する戦略を実行した。リアル店舗とオンラインを併用する顧客の購入単価は、オンラインのみの顧客と比べて2倍以上に達し、年間平均リピート率は44.5%と業界平均の30%を大きく上回る。2020年には「DX注目企業」に選定され、UX起点の経営変革が評価された。

6. 結論

本書は、「DXの目的はUXの再定義である」という命題を、世界33人の実践者の声によって 帰納的に実証した 点に最大の価値がある。経済産業省の「2025年の崖」が警告する年間最大12兆円の経済損失リスクを前にして、日本企業が取るべき方向性を明確に示している。

ただし、カンファレンス書籍化の形式的制約から、 体系的な実行方法論としては『UXグロースモデル』との併読が不可欠 である。また、中国・東南アジア発の事例を日本の規制環境や組織文化にどう翻訳するかは、読者自身に委ねられている課題として残る。

大企業の新規事業開発担当者にとっては、社内の意識変革と経営層への説得材料として極めて有効な一冊である。 DXを「手段」から「目的の再定義」へと転換させる視座 を獲得するための必読書といえる。

参考文献

  1. 藤井保文『アフターデジタルセッションズ 最先端の33人が語る、世界標準のコンセンサス - L&UX2021』日経BP、2021年
  2. 藤井保文・尾原和啓『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』日経BP、2019年
  3. 藤井保文・小城崇・佐藤駿『UXグロースモデル アフターデジタルを生き抜く実践方法論』日経BP、2021年
  4. 藤井保文『アフターデジタル2 UXと自由』日経BP、2020年
  5. Stolterman, E. & Fors, A. C. “Information Technology and the Good Life,” Information Systems Research, Springer, 2004
  6. Li, K.-C., et al. “Emergence of the Online-Merge-Offline (OMO) Learning Wave in the Post-COVID-19 Era: A Pilot Study,” Sustainability, Vol.13, No.6, 2021
  7. Chen, S. & Lin, C. “Enhancing Online-Merge-Offline (OMO) Marketing Effectiveness and Sustainability,” Asia Pacific Business Review, Vol.28, No.3, 2021
  8. Huang, Y., et al. “What Makes Online-Merge-Offline (OMO) Education Succeed? A Holistic Success Model,” Springer, 2022
  9. Verhoef, P. C., et al. “Digital Transformation: A Multidisciplinary Reflection and Research Agenda,” Journal of Business Research, Vol.122, 2021
  10. 経済産業省「DXレポート ~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」2018年
  11. McKinsey & Company “Using Digital Transformation to Thrive in Japan’s New Normal: An Urgent Imperative,” 2020
  12. BCG(Boston Consulting Group)“Digital Transformation Survey: 70% of Digital Transformations Fail,” 2020
  13. 日本マーケティング学会『トヨタのKINTOが生み出す人とクルマの新しい関係』マーケティングジャーナル、Vol.43, No.2, 2023
  14. 丸井グループ「『DX注目企業2020』選定プレスリリース」2020年
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