課題・背景
日本のスポーツ産業は、観客動員数やメディア放映権に依存する収益構造が長年の課題であった。特にマイナースポーツやアマチュアスポーツでは、 ファンとの接点がスタジアムでの観戦に限られ 、デジタル上でのエンゲージメント手段が乏しかった。
チームやアスリートにとっても、ファンとの直接的なコミュニケーション手段は限られていた。試合中にリアルタイムでルール解説やチーム情報を届けたり、ファンからチームへ直接支援を届けたりする仕組みは整備されていなかった。
取り組みの経緯
2013年にNTTコミュニケーションズに入社した 岩田裕平 は、2018年の社内ビジネスコンテストでスポーツ観戦のデジタル化構想を提案し、優勝した。岩田は事業責任者に就任し、社内での事業開発をスタートさせた。
2019年3月には、米国テキサス州で開催される SXSW 2019 でSpoLiveを世界に向けて初公開。AI・ARを活用したスポーツ観戦の新体験を提示した。しかし、大企業内部での事業推進には意思決定のスピードや資本政策の自由度に限界があった。
転機となったのが経済産業省の 「出向起業スタートアップ補助金」 への採択である。2020年10月、岩田はNTTコミュニケーションズに籍を置いたまま、 SpoLive Interactive株式会社 を設立してCEOに就任した。大企業の「論理」とスタートアップの「情熱」を併せ持つ事業リーダーとして、独立した法人格での事業推進が可能になった。
サービス概要
SpoLiveは 2つのプロダクト で構成される二面プラットフォームである。
1つ目は、スポーツファン向けの バーチャル観戦アプリ である。試合中にリアルタイムでスコア更新、選手情報、ルール解説が表示され、ファンはギフティング(投げ銭)機能「スーパー応援」でチームやアスリートを直接支援できる。ライブ映像配信機能も搭載し、スタジアムにいなくても臨場感ある観戦体験を提供する。
2つ目は、スポーツ団体向けの 試合・コンテンツ管理クラウド である。チーム運営者は試合情報の配信、ファンデータの管理、収益化ツールの活用を一元的に行える。この2つのプロダクトが補い合いながら1つのエコシステムを形成する設計が特徴である。
NTTコミュニケーションズシャイニングアークス(ラグビーチーム)ではライブ映像配信機能とギフティング機能の導入が行われ、 自社グループのスポーツチームを実証環境として活用 するという大企業ならではの戦略が機能した。
成果と現状
SpoLiveは複数のスポーツ団体に導入され、ファンエンゲージメントの向上と新たな収益源の創出に寄与している。出向起業というスキームにより、大企業の信用力とスタートアップの機動力を両立させた事業運営が実現している。
岩田は「大企業の『論理』とスタートアップの『情熱』を併せ持つ事業リーダー」として、社内起業家(イントラプレナー)のロールモデルとなっている。
この事例から学べること
第一に、「出向起業」は大企業の新規事業における第三の選択肢であるという示唆である。 社内ベンチャーでもなく、完全な退職起業でもない「出向起業」は、個人のキャリアリスクを最小化しながら、法人としての意思決定の自由度を確保する。経済産業省の補助金制度と組み合わせることで、制度的な後押しも得られる。
第二に、自社グループのアセットを「実証環境」として活用する戦略の有効性である。 NTTコムのラグビーチームでの導入は、外部顧客を獲得する前のプロダクト検証を自社内で完結させた。大企業グループには事業会社やスポーツチームなど多様なアセットがあり、新規事業の実証に活用できる余地は大きい。
第三に、二面プラットフォームの設計がスポーツテックの鍵であるという点である。 ファン向けアプリだけでは収益化が難しく、団体向けクラウドだけではユーザー基盤が育たない。両面を同時に提供し、ファンの増加がチームの収益を押し上げ、チームのコンテンツ充実がファンのエンゲージメントを高めるという好循環を設計した。


