課題・背景
総合商社のビジネスモデルはトレーディングから事業投資へと進化してきたが、 既存事業のオペレーション最適化に人材が集中し、ゼロからの事業創造に挑む機会は限られていた 。商社の組織は縦割りの事業部門制が基本であり、部門横断的な新規事業提案の仕組みは整備されていなかった。
一方、デジタル化の進展により既存の商社ビジネスが破壊されるリスクも高まっていた。 社員一人ひとりが起業家精神を持ち、新しい事業を自ら生み出す文化 の醸成が、住友商事にとって経営課題となっていた。
取り組みの経緯
住友商事は2018年、新事業創造を目的とした社内起業制度 「0→1チャレンジ」 を開始した。制度設計における最大の特徴は、 「ビジネスプラン不要」「個人の情熱優先」「外部アクセラレーターによる支援」 という3つの方針である。
従来の社内提案制度が精緻な事業計画を求めがちなのに対し、0→1チャレンジでは アイデアの完成度よりも起案者の情熱と課題意識 を重視した。これにより、事業計画の作成経験がない若手社員やバックオフィス部門の社員も気軽に応募できる設計とした。運営支援には新規事業創出の専門企業 01Booster が参画し、外部の知見とネットワークを活用した伴走支援体制を構築した。
「全社員の挑戦を支援する『0→1チャレンジ』の仕掛け」
サービス概要
0→1チャレンジは、住友商事グループの 全社員約6万人 を対象とした公募型の社内起業制度である。国内のみならず 海外拠点からの応募も受け付け ており、組織・年次・職種の制限は一切ない。
応募者にはビジネス創造のコンセプト研修、アイデアの磨き込み支援、ステークホルダーとのネットワーキング機会、プレゼンテーションコーチングなどが提供される。選考を通過した事業案には、 社内リソースの優先的な割り当てと、事業化に向けた専門家チームの伴走支援 が行われる。
2024年度には制度を進化させ 「0→1 NEXT」 として再始動。応募要件や支援体制の拡充が図られている。
成果と現状
0→1チャレンジからは、農業物流マッチングサービス 「CLOW」 をはじめとする複数の新規事業案が生まれている。制度の意義は事業創出にとどまらない。 選考を通過した社員が社内の「アンバサダー」として活動 し、挑戦の文化を周囲に波及させる効果が報告されている。
新規事業開発と人材育成の 二軸を同時に推進する制度設計 は、総合商社という大規模組織において起業家精神を根付かせる施策として機能している。6万人という対象規模は日本の社内起業制度としても最大級であり、「誰もが起業家になれる」というメッセージを組織全体に発信している。
この事例から学べること
第一に、応募ハードルの引き下げが参加者の多様性を生むという点である。 ビジネスプラン不要という方針は、事業計画の作成スキルを持たない人材からのアイデア流入を可能にした。多様なバックグラウンドからの提案こそが、商社の既存事業にない発想を生む。
第二に、社内起業制度には「人材育成」の機能が不可分に含まれるという点である。 事業化に至らなかった提案者も、起案・検証・プレゼンのプロセスを通じて事業創造のスキルを獲得する。これは制度の「ROI」を事業化件数だけで測るべきでないことを意味する。
第三に、外部アクセラレーターとの連携が制度の質を担保するという点である。 社内だけの評価は既存事業のバイアスに影響されやすい。01Boosterのような外部専門機関が伴走することで、市場視点でのアイデア検証とスキル移転が実現する。


