課題・背景:生成AI時代の「質の高い意思決定」問題
生成AIの普及により、初期の市場調査や競合分析といった 「量と速度」を求める分析業務 の効率は大幅に向上した。企業の担当者は以前よりも短時間で膨大な情報を収集・整理できるようになった一方、新たな課題が浮上している。
差別化につながる意思決定には、業界経験者の知見が依然として不可欠だ。 特に新規事業や市場参入の局面では、「何が分からないのかが分からない」という状態に陥りやすい。一般的なAIは公開情報を学習しているため、業界固有の暗黙知や現場の判断プロセスを反映した示唆は得にくい。AIの分析結果が、実際の意思決定の精度向上に直結しないケースが増えている。
取り組みの経緯:異なる強みを持つ2社の合流
2026年4月14日、博報堂とビザスクは 資本業務提携契約を締結 した。博報堂がビザスク創業者・端羽英子氏保有の40,000株(発行済株式総数の 0.43% )を譲り受けるかたちで資本関係を構築した。
博報堂は「生活者発想」を軸に最新技術との融合を進め、AI商談シミュレーションやAIペルソナを活用した意思決定支援の実績を持つ。一方のビザスクは 国内外80万人超のエキスパートネットワーク を擁し、上場大手企業の4社に1社への導入実績と年間約12万件のインタビューマッチング支援実績を積み上げてきた。
両社の経営陣は、AIの「広さ・速さ」とリアル専門家の「深さ・精度」を組み合わせることで、市場に存在しない新たなソリューションを生み出せると判断した。
サービス・事業の仕組み:AIから専門家へのシームレスな連携
共同開発するAIソリューションの名称は 「エキスパートAI」 である。その設計思想は、AIと人間のエキスパートを二者択一ではなく 連続した一つのプロセス として組み込む点にある。
まず、専門家の業界特有の常識や判断プロセスを学習したAIが初期分析と示唆出しを担う。ユーザーが「何を深掘りすべきか」という検討軸を素早く把握できるよう設計されている。個別の専門的な深掘りや最終的な意思決定の局面では、ビザスクのリアル専門家ネットワークへのインタビューマッチングが自動的につながる仕組みだ。
市場調査・競合分析・戦略立案支援をBtoB・BtoCの両領域でカバーし、新規事業や市場参入を目指す企業の担当者が主な対象となる。エキスパートAIに留まらず、新たなサービス開発や顧客基盤の相互活用による販売連携も視野に入れた協力関係を構築していく方針だ。
この事例から学べること
AIとリアル専門家知見の組み合わせは、単なる「効率化」を超えた価値を生む。 生成AIが得意とする「広く・速く」の分析と、人間の専門家が持つ「深く・精確」な判断を一つのサービスで連携させることで、どちらか単体では届かない意思決定品質を実現できる。この設計思想は、AI活用サービスの今後の方向性を示唆している。
資本提携を伴うパートナーシップは、業務提携単体より深い協業基盤を生む。 単なる業務連携では、両社のリソース・ノウハウを統合したプロダクト開発は難しい。創業者の株式譲渡を介した資本関係の構築は、中長期の共同開発を支える信頼の仕組みとして機能する。
「問いの質」を高めることが、AI時代の競争優位になりうる。 正確な問いや検討軸を素早く導き出す設計は、情報が飽和した時代の本質的な課題を突いている。業界固有の知見をAIに組み込み、「何を聞くべきか」を自動的に提示するアプローチは、ユーザーの認知負荷を下げながら意思決定の精度を上げるという新しい価値定義だ。
関連項目
参考文献・出典
- 博報堂とビザスク、専門家知見を活用した「エキスパートAI」共同開発で資本業務提携(Biz/Zine、2026年4月14日)