課題・背景:自社アクセラレーターの先にある壁
北海道ガス株式会社 は、2018年から自社アクセラレータープログラム「 KITAGAS SMART LIFE ACCELERATOR 」を運営してきた企業である。約3ヶ月間のPoC(概念実証)期間を設定し、地元スタートアップと共創する仕組みを8年近く続けてきた実績がある。
同プログラムでは、モバイルバッテリーシェアリング「GREEN UTILITY」、家具サブスクリプション×IoTインテリア「KITA LIFE STYLE」、体験シェアリング「アウタビ北海道」など、複数の共創事例を生んできた。実務チームに意思決定権を持たせ、営業サポートや設置場所の交渉まで担う。数字だけでなく「人と人」で動く支援だ。
だが自社完結型のプログラムには構造的な限界もある。応募が集まる母集団は、どうしても地元・国内中心になりやすい。8年続く実績を持つ企業であっても、グローバルな規模でのスタートアップ探索は別の仕組みを必要とする。
取り組みの経緯:HFX参画とファンド出資の決定
北海道ガスは 2026年8月21日 、経営計画「 Challenge 2030 」のもとで、グローバルアクセラレーションプログラム「 Hokkaido F Village X(HFX) 」へのパートナー参画と、「 Scrum Hokkaido Fund I, LP 」への出資を同時に発表した。
今回「HFX」への参画およびファンド出資により、世界最先端のトレンドを取り入れ、当社の持つお客さま基盤や設備・施設と、国内外スタートアップが有する技術を掛け合わせた事業共創を加速させてまいります。 ―― 北海道ガス株式会社 ニュースリリースより(出典)
HFXは スクラムベンチャーズ と スクラムスタジオ株式会社 が企画・運営するプログラムで、北海道ボールパークFビレッジを拠点に、Fighters Sports & Entertainmentが運営パートナーを務める。北海道ガスが持つ自社プログラムとは運営主体も規模も異なる、外部のグローバル拠点への参画である。
サービス・事業の仕組み:実証フィールドと二正面の共創
北海道ガスが掲げる参画目的は3点ある。お客さまの安全・快適な暮らしを支える新サービスの創出 、 地域の脱炭素化に資する先進技術の導入 、そして デジタル技術を用いた現場業務の高度化 である。いずれもKITAGAS SMART LIFE ACCELERATORが手がけてきた領域の延長線上にありながら、対象とするスタートアップの母集団はHFXを通じて世界規模に広がる。
HFXの拠点は年間数百万人規模の来場者を集める北海道ボールパークFビレッジ。実際の来場者・施設環境を、そのまま実証フィールドとして使える。北海道ガスにとっては、自社プログラムが担う「地元での深い伴走」と、HFXが担う「グローバルな案件発掘」、そしてファンド出資が担う「プログラムの選考対象にならない案件へのアクセス」という 三層構造 が生まれることになる。
成果と現状:HFX第1期の実績とキックオフウィーク
HFXの第1期(2025年)では、世界 29カ国から310社 が応募し、国内1社・海外10社の計 11社 が採択された。約半年間で 10件の事業共創 が実現している。パートナー企業にはヤマトホールディングス・東急不動産・ファイターズ スポーツ&エンターテインメントなどが名を連ね、2026年6月には日本ハムもパートナーとして加わった。
北海道ガスの参画発表から4日後の 2026年8月25日から4日間 、「HFX Kickoff Week」が開催される。第2期採択スタートアップを北海道に招き、現地視察やパートナー企業との面談が実施される予定で、8月26日のメディアセッションには北海道ガスも参加する見込みである。第2期の共創実績はこれから積み上がる段階にあり、現時点で成果を評価するには時期尚早と言える。
この事例から学べること
北海道ガスの事例が示すのは、「自社プログラムか外部プラットフォームか」という二者択一で考える必要はない、という点である。自社プログラムの実績(採択数・共創数)だけで新規事業のKPIを完結させてしまうと、母集団の狭さそのものに気づきにくくなる。
「地元の深い伴走」と「グローバルな規模」は代替関係ではなく補完関係にある。加えて、アクセラレーターへのパートナー参画だけでなくファンドへの出資まで踏み込めば、プログラムの選考を通らなかった案件にもアクセスできる経路が生まれる。自社に何年も続くオープンイノベーション制度を持つ企業ほど、「もう十分やっている」という手応えを一度疑ってみる価値がある。
関連項目
参考文献・出典
- 新たにパートナーとして北海道ガス株式会社が参画、北海道を舞台に世界中のスタートアップと事業共創を行う「Hokkaido F Village X(HFX)」(Scrum Ventures LLC / PR TIMES)
- グローバルアクセラレーションプログラム「Hokkaido F Village X」へ参画(北海道ガス株式会社)
- 北海道ガス×スタートアップによる3つの共創プロジェクト。その裏側に迫る。(TOMORUBA)
- 北海道を舞台に世界中のスタートアップと事業共創を行う「Hokkaido F Village X(HFX)」、スタートアップ11社を採択(Scrum Ventures)
- 北海道・Fビレッジを舞台に、世界中のスタートアップの社会実装を加速するアクセラレーションプログラム「Hokkaido F Village X(HFX)」始動(Scrum Ventures)
- グローバルスタートアップが北海道で事業共創成果を発表「Hokkaido F Village X(HFX)」(Scrum Ventures)
- Hokkaido F Village X(HFX)公式サイト


