課題・背景:地方銀行グループに迫られる「収益構造の再設計」
地方銀行は長年、預金・貸出・手数料という伝統的な銀行業務に収益を依存してきた。しかし低金利環境の長期化・人口減少による地域経済の縮小・フィンテック企業の台頭という3つの構造変化が重なり、従来モデルの持続可能性に疑問が生じている。
伊予銀行(愛媛県松山市)を中核銀行とするいよぎんグループも、四国経済の縮小という地域固有の課題を抱えながら、新たな収益基盤の構築を迫られてきた。地方銀行が「金融仲介機能」だけでなく「地域産業創出・スタートアップ支援の拠点」としての役割を担うことへの期待が高まる中、いよぎんHDは単なる融資やコンサルティングを超えた戦略的資本投資(CVC)という手段を選んだ。
また銀行本体の業務範囲規制(銀行法第11条等)は、銀行が直接リスク資本投資を行うことを制限している。2021年の持株会社体制への移行は、こうした規制の外側でCVC機能を持つための制度的準備としても機能した。
取り組みの経緯:AX(アライアンス・トランスフォーメーション)という戦略フレームの設計
いよぎんホールディングスは2025年7月、グループ戦略の新たな柱として「AX(アライアンス・トランスフォーメーション)戦略」を打ち出し、それを推進する「AX戦略室」を持株会社内に新設した。
AXとは、外部企業・スタートアップとのアライアンス(提携・出資)を通じて、グループの事業モデルそのものを変革(トランスフォーメーション)していくという考え方だ。単なるオープンイノベーション施策ではなく、持株会社の戦略として資本配分の優先順位にCVC投資を組み込むという意思決定を示している。
CVCファンドは総額20億円。内訳はいよぎんホールディングス(19.5億円)といよぎんキャピタル株式会社(0.5億円)の協調出資。いよぎんキャピタルは伊予銀行グループのVC子会社であり、これまでも地域スタートアップへの投資実績を持つ。
投資方針:四国・中四国の地域課題を起点とした戦略投資
AX戦略室が運用するCVCファンドの投資対象は、主に以下の領域に絞り込まれている。
フィンテック・資産管理 領域では、銀行のデジタル化・API連携・ウェルスマネジメントサービスの高度化に貢献するスタートアップが対象だ。伊予銀行の個人・法人顧客基盤を活用したPoC・共同事業展開が期待される。
地域DX・産業構造変革 領域では、四国の基幹産業(農業・水産業・製造業・観光業)のデジタル化や生産性向上に対応するスタートアップへの出資を行う。地域金融機関の強みである「顧客との長期関係・現場へのアクセス」をスタートアップの実証フィールドとして提供できる点が差別化要因だ。
ヘルスケア・地域ウェルビーイング 領域では、人口減少・高齢化という四国の課題に対応するサービス・技術への投資を行う。
この事例から学べること
持株会社化がCVC設立の制度的前提を整備する
銀行本体での直接リスク資本投資には銀行法上の業務範囲規制があるが、持株会社体制への移行によってグループ内にCVC機能を設ける構造が作れる。いよぎんHDのケースはこの制度的ルートを体現した先行事例であり、同じ課題を抱える地方銀行グループが参照できる構造モデルだ。
「AX」というフレーミングが社内外のメッセージを一本化する
「CVC設立」と発表するより、「アライアンスを通じた自社変革(AX)」という言葉で包むことで、スタートアップへの発信文脈と社内の戦略位置づけが統合される。名称が戦略の方向性を固定し、単発施策ではなく持続的な変革コミットメントとして読まれる設計だ。
地域金融機関のCVCは「資本 × 顧客基盤」の二役を担える
都市部のCVCと違い、四国・中四国の地域産業・法人顧客への深いアクセスはスタートアップにとって資金以上の価値を持ちうる。投資先企業にとって「実証フィールドと顧客紹介を同時に得られる出資元」という位置づけは、地方銀行系CVCが都市型VCと差別化できる構造上の強みだ。
関連項目
参考文献・出典
- いよぎんホールディングス(公式サイト・IRページ): https://www.iyohd.co.jp/
- PR Times:いよぎんホールディングス「AX戦略室設立・CVCファンド組成について」(2025年7月24日付プレスリリース)