課題・背景:8年運用した自社CVCの壁
JA三井リース株式会社 は、2018年に社内ベンチャーキャピタル・ファンドを立ち上げ、50億円規模の資金でスタートアップ投資を進めてきた企業である。8年間で40社超への投資実績を積み、リース事業で培った顧客基盤や地域ネットワークを生かした共創を模索してきた。
しかし社内完結型のCVCには、実務上の限界がつきまとう。投資判断のスピード、ハンズオン支援の専門性、スタートアップ側から見た「投資家としての信頼度」——いずれも、本業がリース業であるがゆえに時間をかけて磨きにくい領域だ。投資実績を重ねるほど、運用の専門性という壁が相対的に大きく見えてくる構造がある。
取り組みの経緯:外部VCと組む「第二幕」
JA三井リースは2026年7月15日、外部VCのSpiral Innovation Partners(SIP)と組み、新たなCVCファンド「JM Strategic Innovation投資事業有限責任組合」を設立した。規模は2018年の第一号ファンドと同じ50億円で、2026年9月から運用を開始する。
顧客課題の解決および新たな事業機会の創出のため、当社グループの顧客基盤・地域ネットワーク・事業ノウハウとスタートアップの革新的な技術を組み合わせ、社会・地域・顧客のあらゆる課題解決を実現してまいります。 ―― JA三井リース株式会社 ニュースリリースより(出典)
出資者(LP)はグループ会社のJA三井ストラテジックパートナーズ株式会社、運用の実務を担う無限責任組合員(GP)はSpiral Innovation Partnersが務める。自社で選定・実行してきた第一号ファンドとは異なり、目利きとハンズオン支援を外部の専門VCへ委ねる体制である。
サービス・事業の仕組み:4領域・最大5億円の投資設計
新ファンドが投資対象とするのは、エネルギー・トランジション、トランスポーテーション、不動産、デジタルインフラの4領域と、それらに限らない「顧客課題の解決を実現する新サービス」である。投資規模は1件あたり約1億円(最大5億円)で、国内のアーリー・ミドルステージのスタートアップを対象にする。
運用期間は10年間(予定)。単年度の投資成果ではなく、中期経営計画「Sustainable Evolution」の重点・基盤領域として複数年にわたり位置付けられている点が、単発のCVC設立との違いである。リース事業を通じて蓄積した顧客基盤・事業ノウハウを、外部VCの目利きと組み合わせる設計だ。
この事例から学べること
JA三井リースの事例が示すのは、CVCの「一号ファンド」が終わったあとの選択肢は、規模拡大か撤退の二択ではないという点である。同じ50億円という金額でも、運営体制を自社完結から外部VCとの協業へ切り替えることで、投資の専門性という壁そのものを解消できる。
8年・40社超という実績があっても、自社で目利きし続けること自体が本業でないなら、専門家に委ねる判断は後退ではない。むしろ中期経営計画に位置付け直すことで、CVCを一時的な施策から継続的な事業機能へ格上げできる。既存のCVCを持つ企業ほど、「次のファンドは誰が運用するか」を問い直す価値がある。





