課題・背景:デジタル広告専業モデルの成長限界と多角化の必要性
セプテーニ・ホールディングスはデジタルマーケティング事業を中核として成長してきたが、デジタル広告市場の成熟化・競合激化とともに、単一事業領域への依存リスクが顕在化した。プラットフォーム(Google・Meta等)の仕様変更や広告単価変動が業績に直結しやすい構造は、中長期的な企業価値向上の障壁となっていた。
こうした背景から、セプテーニ・ホールディングスは「デジタルマーケティングを軸とした隣接領域への事業拡張」を経営戦略として定め、グループ内の新規事業創出機能を強化する方針を選択した。外部M&Aによる事業取得と、内部インキュベーションによる自前の事業育成を組み合わせたポートフォリオ経営への転換が、2014年以降のセプテーニ・インキュベート設立を起点とする事業多角化の文脈である。
また、「ひとりひとりのアントレプレナーシップで世界を元気に」というグループビジョンは、社内に起業家精神を根付かせる組織文化の設計方針でもある。社員が新規事業を立ち上げ、それを法人化して独立事業体として育てるサイクルを体制として整備することが、グループ全体の成長力を高める意図につながっている。
取り組みの経緯:セプテーニ・インキュベートが担う「社内VC」機能
2014年にセプテーニ・ホールディングスが設立したセプテーニ・インキュベートは、グループの新規事業発掘・育成を専業とする100%子会社として機能している。同社が運営する年次新規事業プランコンテスト「gen-ten」は、グループ社員が事業アイデアをピッチし、優秀プランの事業化を支援する社内起業プログラムだ。
「100人の商人(あきんど)の輩出」というビジョンのもと、社内の起業家を系統的に育成することが、セプテーニグループの持続的成長の根幹をなす。
――セプテーニ・インキュベート事業方針
gen-tenの審査には外部ベンチャーキャピタリストも招聘されており、入賞者には実際に事業を立ち上げる権限と支援リソースが付与される。社内の事業立案から法人化・独立運営まで、成長ステージに応じたハンズオン支援が提供される体制だ。
サービス・事業の仕組み:法人化5事業のポートフォリオ
セプテーニ・インキュベートが育成・法人化した主要事業は以下の5社である。
ViViViT(ビビビット)
デザイナー向けのポートフォリオ共有・採用マッチングプラットフォーム。クリエイティブ業界のデザイナーと企業をポートフォリオを軸につなぐ。累計60万点超のクリエイティブ投稿、利用企業2,700社超、マッチング実績10万件以上を記録し、2020年度グッドデザイン賞を受賞している。
gooddo(グードゥー)
NPO支援と企業マーケティングを両立させる社会貢献プラットフォーム。ユーザーの日常行動(シェア・クリック等)と企業の広告費を連動させ、NPO・社会的団体への寄付につなげる仕組みを持つ。2014年に法人化し、CSR・ESG文脈での企業活用が拡大した。
TowaStela(トワステラ)
育児関連ECサービスを運営する事業体。「ベビフル」「amanoppo」の2つのECサイトを展開し、乳幼児用品の販売・情報提供を行う。
SIGNCOSIGN(サインコサイン)
ブランド理念共創を専門とする事業。ファシリテーション手法を通じて企業のブランドアイデンティティ構築を支援し、パーパス経営・ブランドデザイン需要の高まりに対応する。
3RD GEAR(サードギア)
「日本独自のコンテンツ体験を輸出する」をミッションとするクリエイターエコノミー事業。日本発のアニメ・ゲームIPのグローバルマーケティング手法の提供と、テクノロジーを活用したコンテンツファン体験の創造を目指す。web3・ブロックチェーン技術を活用したデジタルアイデンティティ(DID/VCs)の相互運用可能性も探求している。
成果と現状:2030年当期利益100億円を目標とする中期方針
セプテーニ・ホールディングスは2030年までに当期利益100億円の創出を中長期目標として掲げ、「高成長と高還元の両立」を目指すと表明している。中期テーマ「フォーカス&シナジー」のもと、4層のシナジー創出を設計している。
- 事業内シナジー:各セグメント内での効率・品質向上
- グループ間シナジー:マーケティング・ダイレクト・データの3セグメント連携
- 電通グループ協業の拡張:グローバルクライアントネットワークへのアクセス
- 外部パートナー協業:出資・M&Aによる能力拡張
2025年1月にはセプテーニスポーツ&エンターテインメントを設立し、プロスポーツクラブへのデジタルマーケティング支援という新領域に参入した。ビービット(UXコンサルティング)との資本業務提携では、LTV最大化ソリューションの共同提供を開始している。また、セグメント構成もマーケティング・コミュニケーション事業 / ダイレクトビジネス事業 / データ・ソリューション事業の3セグメント体制に刷新し、成長投資フェーズへの転換を鮮明にしている。
この事例から学べること
第一に、「社内起業家文化の制度化」は、単なるコンテスト開催ではなく法人化・独立事業体として育てる仕組みの設計が核心だ。 セプテーニが5事業の法人化を実現できたのは、gen-tenが審査で終わらず、事業化支援・グループリソース活用・外部VCとの接触まで一貫した支援体制を持つためだ。「やってみた」で終わらない制度設計が社内起業の果実を生む。
第二に、デジタルマーケティング企業が新規事業で目指すべきは「隣接領域」への進出であり、コア能力との接点を持つ事業の選択と集中が重要だ。 ViViViT(クリエイター × 採用)、gooddo(デジタル × 社会貢献)、3RD GEAR(コンテンツ × グローバル)はいずれも、デジタルマーケティングの知見・インフラが活きる領域に設計されている。コアから遠い領域への飛躍ではなく、隣接性を持った拡張が成功確率を高める。
第三に、グループ内の「上位会社との協業ルート」を戦略的に設計することが、新規事業の成長速度を左右する。 電通グループとの協業拡張を中期戦略の軸に置くセプテーニの判断は、自社単独では届きにくいグローバル大手クライアントへのアクセスを実現する。親会社・グループの強みを新規事業の成長エンジンに組み込む設計は、大企業発新規事業の固有の優位性だ。
関連項目
参考文献・出典
- セプテーニ・インキュベート公式サイト https://www.septeni-incubate.co.jp/
- セプテーニ・ホールディングス IR・投資家情報 https://www.septeni-holdings.co.jp/ir/
- ログミーファイナンス「セプテーニHD、売上高・収益が過去最高を更新 2025年は攻めの経営で営業増益転換によるV字回復を目指す」 https://finance.logmi.jp/articles/381088
- STARTUP DB「セプテーニ・ホールディングス」 https://startup-db.com/investment-companies/7LPWpoVUOngGz5Em