課題・背景:ウェルビーイング系スタートアップ支援の構造的課題
ウェルビーイング・エコノミーへの移行は、世界的な経済変革の一つの方向性として認識されている。しかし、ウェルビーイング系スタートアップは 「経済価値と社会価値の両立」 という難しい設計を求められ、伝統的なVCの収益重視の評価軸では十分に支援されにくい構造がある。
スタートアップ側も、研究機関との連携、専門家の知見、長期的な伴走者を必要とする。短期的なリターン至上主義のVCとは別の、 アカデミア・大企業・政策の三者を巻き込んだ支援エコシステム が必要だった。
この構造課題に対し、 「WE AT」 はウェルビーイング・エコノミーの基盤となる 経済資本・自然資本・人的資本・社会資本 の蓄積に貢献するスタートアップを支援する産官学エコシステムとして設計された。
取り組みの経緯:3大学13社の産官学連携
WE ATは2024年5月16日、東京大学・京都大学・東京科学大学などを発起人として設立された。本部は東京都文京区本郷に置かれ、共同代表理事は 吉澤到氏 と 藤本宏樹氏 が務める。
参画機関は段階的に増加し、2026年4月時点で 3大学・13社 の体制となっている。アカデミアと事業会社の双方が参画する産官学連携のエコシステムは、ウェルビーイング系スタートアップに対して 研究知見と事業ノウハウの両方 を提供できる構造を持つ。
2026年4月27日、 東急不動産 が新規参画を発表した。同社は渋谷地域でのスタートアップ支援施設 「SAKURA DEEPDECH SHIBUYA」 を運営しており、環境先進企業としての取り組みも蓄積してきた。
「ウェルビーイング・エコノミーの基盤となる経済資本、自然資本、人的資本、社会資本の蓄積に貢献するスタートアップを支援する」
――WE AT 公式声明(PR TIMES、2026年4月)
サービス・事業の仕組み:拠点ネットワーク×研究連携
東急不動産のWE AT参画の意義は、 物理拠点とエコシステムの連動 にある。SAKURA DEEPDECH SHIBUYAなどの渋谷拠点は、ウェルビーイング系スタートアップにとって アクセスの良い実証フィールド として機能する。研究機関の知見と事業会社のリソースを組み合わせる構造に、東急不動産の拠点運営力が加わることで、エコシステムとしての厚みが増す。
東急不動産自身にとっても、ウェルビーイング系スタートアップとの接点は 将来の街づくりに直結する 戦略的な意味を持つ。住む・働く・遊ぶの全領域でウェルビーイングへの志向が強まる中、その担い手となるスタートアップとの早期連携は、不動産デベロッパーの長期的な競争優位を作る。
この事例から学べること
第一に、産官学連携のエコシステムは「研究シーズの事業化」と「事業会社のスタートアップ接点」を制度化する装置として機能する。 WE ATが3大学を発起人に置きつつ13社の事業会社が参画する構造は、研究知見と事業実装の両方を確保する設計である。 大学の研究成果を事業会社が活用する プロセスをエコシステム単位で運用することで、個社では実現しにくい長期支援が可能になる。
第二に、拠点運営は新規事業支援エコシステムへの参画資産になる。 東急不動産が持つSAKURA DEEPDECH SHIBUYAなどの渋谷拠点は、エコシステムにおいて重要な 物理的インフラ として機能する。デベロッパーがイノベーション支援に参画する際、自社の不動産資産を活用する構造を持つことが差別化要因となる。
第三に、ウェルビーイング・エコノミーは新規事業の重要なテーマ領域として確立されつつある。 4資本(経済・自然・人的・社会)への注力という枠組みは、 社会価値と事業性の両立 を志向する企業にとって参照可能な戦略設計だ。WE ATへの参画は、東急不動産が長期的な事業領域としてウェルビーイングを位置づけたことを示すシグナルでもある。
関連項目
参考文献・出典
- PR TIMES「産官学による新たなイノベーション創出エコシステム『WE AT』に東急不動産が参画」https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000016.000152107.html