課題・背景
日本の食品は品質の高さで世界的に評価されているが、 中小食品メーカーにとって海外輸出のハードルは極めて高かった 。各国の食品規制への対応、通関手続き、現地バイヤーとの商談、物流の手配など、輸出に必要なプロセスは複雑かつ多岐にわたる。
大手商社やメーカーは独自の海外販路を持つが、 国内に数万社存在する中小食品メーカーの大半は輸出経験すらない 。コストと知識の壁が、日本食の海外展開を阻む最大の障壁となっていた。政府は農林水産物・食品の輸出拡大を国策として掲げていたが、実務面でのサポート基盤は不十分であった。
取り組みの経緯
2015年、ソフトバンクの社内起業制度 「ソフトバンクイノベンチャー」 に、日本食の輸出支援事業のアイデアが提出された。ソフトバンクイノベンチャーは社員であれば誰でも新規事業を提案できる制度だが、その競争は熾烈である。 累計応募件数は数千件規模に及び、事業化に至るのはごく一部 という厳しい競争環境である。
起案から会社設立まで 約2年半 の審査・検証期間を要し、2019年3月にプラットフォーム「umamill(ウマミル)」のサービスを開始。同年4月にはSBイノベンチャー株式会社の子会社として umamill株式会社 が設立された。
「審査通過から2年半、0.1%の難関くぐり会社化。SBイノベンチャー初の輸出支援事業」
サービス概要
umamill は、日本の食品メーカーと海外の食品バイヤーをつなぐ輸出支援プラットフォームである。食品メーカーは自社商品の情報や画像をumamillに 無料で掲載 できる。海外バイヤーは掲載商品のサンプルを無料で取り寄せ、試食した上で発注の判断が可能である。
最大の特徴は、 輸出に必要なプロセスをワンストップで完結 できる点にある。各国の法的条件の確認、輸出手続き、商品の輸送までをプラットフォーム上で一括管理し、従来の輸出プロセスと比較して コストを約10分の1に削減 することを実現した。ソフトバンクグループのIT・AI技術を活用し、マッチングの精度向上と業務自動化を推進している。
成果と現状
2022年時点で 海外バイヤー約600社 との提携を達成し、着実に商流を拡大している。農林水産省が推進する農林水産物・食品輸出プロジェクト (GFP)のアンバサダー にも認定され、国の輸出戦略とも連携した展開を進めている。
事業基盤の強化に向けて旭食品との資本提携も実施し、 国内食品メーカーの開拓と海外バイヤーネットワークの拡大 を両輪で推進する体制を構築した。SBイノベンチャー発の事業として、ソフトバンクグループの社内起業制度の成功事例に位置づけられている。
「日本の食品を世界中の食卓へ。umamillが広げる日本食メーカーの海外進出」
この事例から学べること
第一に、社内起業の「時間軸」を許容する制度設計の重要性である。 起案から会社設立まで2年半を要したが、その期間は事業仮説の検証と磨き込みに費やされた。拙速に市場投入するのではなく、十分な準備期間を確保できる制度が事業の質を高めた。
第二に、プラットフォーム型ビジネスにおける「両面市場」構築の戦略である。 食品メーカーには無料掲載、バイヤーには無料サンプルという低障壁で双方を集め、取引成立時にマネタイズするモデルは、ネットワーク効果を最大化する合理的な設計である。
第三に、親会社のコア技術(IT・AI)を全く異なる業界課題に適用した点である。 通信・テクノロジー企業であるソフトバンクの強みを、食品輸出という一見無関係な領域に転用することで、既存プレイヤーにはない価値を創出した。


