Will(原体験の意志)
Will(原体験の意志) とは、「この不条理を自分の手で解決する」という当事者意識に根差した強烈な意志のことである。単なるモチベーションや情熱とは異なり、自らの原体験から湧き上がる使命感であり、事業が困難に直面した際にも折れない推進力の源泉となる。
大企業の新規事業において、Willの有無は事業の生死を分ける最大の要因の一つである。以下では、Willがなぜ重要なのか、そしてどのようにして自分自身のWillを発見・言語化できるのかを解説する。
「やりたいこと」が見つからない新規事業担当者の苦悩
社内新規事業コンテストの公募が始まり、「何か提案しなければ」とネットで事業アイデアを探す。流行のキーワードを組み合わせてそれらしい企画書を作るが、 自分自身がその事業に本気になれない。審査を通過しても、最初の壁にぶつかった瞬間に「別のテーマでやり直そう」と撤退してしまう。
この問題の根本は、アイデアの質ではなく 起案者自身のWillの不在 にある。市場データや競合分析は完璧でも、「なぜ自分がこの事業をやるのか」という問いに答えられなければ、困難を乗り越える力が生まれない。新規事業は想定外の連続であり、Willなき事業は最初の嵐で沈む。
「母の介護」が生んだヘルスケア事業の突破力
ある大手商社の若手社員は、母親の在宅介護を経験する中で 介護情報の分断と不透明さ に強い憤りを感じていた。ケアマネジャーとの連携が取れず、必要なサービスの存在を知らないまま、家族だけで疲弊していく。「 この不条理を誰かが解決しなければならない。自分がやる」と決意した。
社内新規事業制度に応募し、介護家族向けの情報プラットフォームを提案した。事業化の過程で 予算凍結、組織改編、キーパーソンの異動 など数々の障壁に直面したが、彼は一度も撤退を口にしなかった。原体験に基づくWillが、どんな困難よりも強い推進力を生んでいた。
自分のWillを発見し言語化する3つの手法
Willを発見し、事業の推進力に変えるための具体的手法は以下の3つである。1) 原体験の棚卸し:人生の中で「 怒り」「悔しさ」「悲しみ」 を感じた出来事をリストアップする。特に「なぜこれが放置されているのか」と感じたネガティブ(不)の体験がWillの種である。ポジティブな体験よりも、ネガティブな体験の方がWillの源泉になりやすい。
2) 「なぜ自分が」の問いを繰り返す:見つけた原体験に対して「なぜ他の誰でもなく自分がこの問題を解決すべきなのか」を5回繰り返す。 自分だけの文脈 が見えてくるまで掘り下げる。汎用的な社会課題ではなく、自分の人生と結びついた課題にこそWillが宿る。
3) ストーリーとして語る:Willは論理ではなく 物語として人に伝える ことで力を持つ。「私は〇〇という経験をした。だから〇〇を解決したい」という一人称のストーリーを作成し、チームメンバーや経営陣の前で語る練習をする。共感を得られるWillは、仲間を集める求心力にもなる。
今週中に「怒りの棚卸し」ワークを実施する
明日から始められるアクションとして、まず1時間の時間を確保し、 人生で感じた「不条理」や「怒り」を最低10個 書き出す。仕事上の経験だけでなく、私生活、学生時代、家族の出来事まで幅広く振り返る。数が多いほど、本当に自分を突き動かすテーマが浮かび上がる。
次に、書き出した10個の中から 最も感情が動くもの を3つ選び、それぞれについて「この問題が解決されたら世の中はどう変わるか」「自分がこの問題を解決する必然性は何か」を書く。この作業を通じて、事業アイデアの前にWillを固めることが、長期間にわたる新規事業推進の 最も重要な土台づくり となる。
アイデアはあるが「本気になれない」と感じている人へ
Willの概念が最も重要なのは、新規事業のアイデアを複数持っているが どれにも全力でコミットできない と感じている担当者である。アイデアの質ではなくWillの深さが足りていない可能性が高い。原体験と結びつかないアイデアは、困難に直面した瞬間にあっさり手放してしまう。
また、 チームのモチベーション維持 に課題を感じているリーダーにとっても、Willの言語化は有効である。リーダー自身のWillが明確に語られることで、チームメンバーは「なぜこの事業をやるのか」を理解し、困難な局面でも踏ん張る理由を共有できる。
原体験の意志がすべての起点になる
Willはパーパスと深く結びつく概念である。組織のパーパスが「なぜこの会社は存在するのか」を問うものであるならば、Willは「なぜ自分がこの事業をやるのか」を問う個人のパーパスと言える。ムーンショットのような壮大な目標も、それを支えるWillがなければ絵に描いた餅に終わる。
自分のWillを見つけたら、次はそれを事業として形にするプロセスに進む。ネガティブ(不)の深掘りから始め、解決すべき課題を具体化しよう。Willを持ったイントラプレナーは、組織の中でイノベーションを起こす最も強力なエンジンである。原体験の意志を言語化することが、すべての起点となる。
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