人物概要
金子祐紀(かねこ ゆうき)は、コエステ株式会社の執行役員であり、東芝出身の 連続社内起業家(シリアル・イントラプレナー) である。東芝が40年以上にわたり培ってきた音声合成技術を活用し、「 コエステーション 」という声のデジタルプラットフォームを構想・立ち上げた。2020年にはエイベックスとのJV(合弁会社)としてコエステ株式会社が設立され、金子は執行役員として事業開発を推進している。
「 70億人の声をデジタル化する 」というビジョンを掲げ、音声合成という高度な技術シーズを、一般消費者が使えるBtoCプラットフォームへと再定義した。東芝における3度の新規事業立ち上げを経験した 社内起業のプロフェッショナル である。
経歴
2005年、東芝にソフトウェアエンジニアとして入社。HD DVD規格部門に配属された後、テレビ系ソフトウェア開発を経験した。2011年、業界で「 録画の神 」と呼ばれた片岡秀夫氏の誘いで新規事業部門へ転身。以降、約10年間にわたり社内で 3つの新規事業 を立ち上げてきた。
最初の挑戦は「 クラウドテレビ事業 」(2011年〜2014年)である。テレビにクラウドのインテリジェンスを付加し、「売って終わり」の従来モデルから利便性と収益性を継続的に向上させるモデルへの転換を図った。スマートテレビの先駆けとして注目を集めた。
2度目は「 ウェアラブル端末事業 」(2014年〜2016年)。眼鏡型デバイスで、1.5m先に透明なスクリーンが浮かび、骨伝導イヤホンで通信可能という構想を実現した。BtoB向けの業務効率改善ソリューションとして事業化を進めていたが、2016年2月の 会計問題 により発売1週間前に中止を余儀なくされた。
退職を検討していた金子は、上司の勧めで音声合成・認識技術の領域へ転向。専門家への相談を重ねるなかで、東芝が保有する 40年超の音声合成技術 に大きな可能性を見出し、2016年に「コエステーション」の構想を着想した。入社わずか2か月後の部署で構想を提案し、数か月にわたる経営層へのプレゼンを経て、2017年7月にベータ版をリリース。2018年4月の正式ローンチでは Twitterでトレンド入り を果たした。
主な実績
コエステーションは、人の声をAI音声合成でデジタル化し、「 コエ(声) 」として登録・活用できるプラットフォームである。一般人を含む 8万人以上 の声データを集約し、テキスト読み上げや音声コンテンツ制作に活用できる。
金子のプラットフォーム設計の核心は、「 声 」ではなく「 人 」を軸にした点にある。「孫の声でメール読み上げを聴きたい理由は声色ではなく、孫だからだ」という洞察に基づき、代替不可能な人の存在そのものをデジタル化する思想が根底にある。
2019年、エイベックスとの協業が決定。経産省の「 始動 」プログラム参加時にGCAテクノベーション久保田氏を通じてエイベックスの加藤氏を紹介され、具体的なシナジーを確認して提携に至った。2020年2月に コエステ株式会社 が設立(エイベックス80.01%、東芝デジタルソリューションズ19.99%出資)。金子は執行役員として事業開発を統括する。
コエステの技術はタカラトミーの読み聞かせスピーカー「 coemo(コエモ) 」に提供され、「 日本おもちゃ大賞2022 」エデュケーショナル・トイ部門大賞を受賞した。
思想とアプローチ
金子の事業哲学は、「 技術の出口は社内ではなく社外にある 」という確信に集約される。東芝の高い品質要求水準のもとでは新規事業の育成が困難と判断し、最初の企画段階から 外部展開を前提 に事業を設計した。この判断がエイベックスとのJV設立という異業種間オープンイノベーションの実現につながった。
また、3度の社内起業経験から「 大企業の技術シーズは、BtoBの受託モデルにとどまらず、BtoCプラットフォームとして再定義すべき 」という持論を持つ。音声合成という高度なディープテックを、日常生活のなかで自然に使われるサービスへと変換するアプローチは、製造業のイノベーション戦略に新たなモデルを提示した。