概要
Game Changer Catapult(ゲームチェンジャー・カタパルト)は、パナソニック(旧アプライアンス社)が2016年に開始した新規事業創出プログラムである。 創業100年を超える巨大メーカーの中で、「家電(カデン)」の定義を再考し、ハードウェア単体ではなく「サービス・体験」を含めた新しい価値を創出することを目指している。
最大の特徴は、未完成のプロトタイプを SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト) などの国際イベントに積極的に出展し、市場の声を開発初期に取り込むスタイルである。
詳細
Game Changer Catapult(GCC)は、日本の大企業が「デザイン思考」と「リーンスタートアップ」を本格的に導入した先駆的事例である。その根底には、既存の成功体験を否定する「Unlearn(学びほぐし)」の思想がある。
「DeliSofter(デリソフター)」:嚥下障害への挑戦
GCCの代表的な成功事例として知られるのが「DeliSofter」だ。 開発メンバーの小川恵氏・水野登喜江氏は、家族の介護経験から「嚥下障害があっても、家族と同じ美味しい食事を食べさせたい」という切実な想いを持っていた。 パナソニックの炊飯器技術を応用すれば可能かもしれない——そのアイデアは、当初「ニッチすぎる」と社内では評価されにくかった。しかし、SXSWに出展した際、現地の来場者から「これは絶対に世の中に必要だ」と熱烈な支持を受けた。この「外圧」とも言える市場の声が、社内での事業化を後押しした。 結果として、DeliSofterは家電の枠を超えた「ヘルスケア・ソリューション」として事業化され、多くの介護現場に笑顔を届けている。
「NICOBO(ニコボ)」:弱いロボット
「NICOBO」は、何か役に立つ機能を持つわけではない「弱いロボット」である。 従来、家電メーカーは「便利さ」「高機能」を追求してきた。しかし、NICOBOのアプローチは真逆だ。しっぽを振ったり、カタコトで話したりするだけの存在が、コロナ禍で孤独を感じる人々の心の隙間を埋めた。 パナソニックが「心の豊かさ」という、数値化しにくい価値に正面から取り組んだ象徴的なプロジェクトである。
「OniRobot(オニロボ)」:BtoBへのピボット
おにぎりロボット「OniRobot」もSXSWで話題をさらったプロダクトだ。 当初はコンシューマー向けも検討されたが、SXSWでのフィードバックを通じて「人手不足に悩む飲食業界(BtoB)」へのニーズが高いことを発見。ターゲットを明確にピボットすることで、事業としての確度を高めた。 これは、完成品を作ってから売るのではなく、作りながら売り先を見つけるGCCのスタイルを体現している。
組織変革の起爆剤として
GCCは単なる商品開発プログラムではない。パナソニックという巨大組織を「内側から壊す」ためのトロイの木馬である。 「品質第一」を掲げるメーカーにおいて、「未完成品を世に出す」ことはタブーに近い。しかし、深田代表は「恥をかいてこい」と背中を押した。SXSWで酷評される経験すらも、社員の成長(アンラーン)に必要なプロセスと捉えているからだ。
Panasonic XC(クロスシー)への発展
2021年には、大阪・門真に共創拠点「Panasonic XC」が開設された。GCCで培われた「社外との共創」文化は、もはや一部のプログラムだけのものではなく、パナソニック全体の新しい働き方として定着しつつある。
学べること
- 「恥をかく」ことの効用: 未完成のプロトタイプを世に出すことは、品質を重視するメーカーにとって恐怖である。しかし、GCCは「恥をかいてこい」と背中を押すことで、机上の空論ではないリアルな事業開発を実現した。
- 外部イベントの活用: 社内の評価軸だけで判断すると、どうしても「既存事業の延長」が選ばれがちになる。外部イベントでの反響という「外圧」を利用することで、尖ったアイデアを守ることができる。
- 「想い」の強さ: DaliSofterの事例が示すように、マーケティングデータから導き出した正解よりも、社員個人の「どうしてもこれを解決したい」という原体験(Will)の方が、困難を突破するエネルギーになる。


