概要
Sony Startup Acceleration Program(SSAP)は、ソニーグループが2014年に開始した新規事業創出プログラムである。 かつてのウォークマンのような「社内発のイノベーション」を意図的に起こすための仕組みとして、当時社長だった平井一夫氏の直轄プロジェクトとしてスタートした。
最大の特徴は、ゼロから事業を立ち上げるプロセスを完全に「 型化」し、それを社内だけでなく 社外(他企業や大学)にも外販 している点である。
詳細
SSAPは、「Seed Acceleration Program(SAP)」として始まり、後に「Sony Startup Acceleration Program」へとリブランディングされた。 創設者の小田島伸至氏が、自身の海外での立ち上げ経験を元に、「天才でなくても事業を作れる仕組み」を構築したことが全ての始まりである。
「REON POCKET」の開発秘話:社員の熱意と組織の壁
着るクーラー「REON POCKET」は、SSAPの象徴的な成功事例である。 発案者の伊藤陽一氏は、かつてモバイル機器の設計者だったが、「夏の暑さや冬の寒さから人々を解放したい」という個人的な強い想い(Will)からプロジェクトをスタートさせた。 当初、社内では「ペルチェ素子で冷やすなんて、バッテリーが持たない」「ニッチすぎる」といった懐疑的な声もあった。しかし、SSAPの仕組みを使い、クラウドファンディングで市場の反応を直接問うたところ、目標額を瞬時に達成(6,600万円以上を調達)。 「社内の会議室」ではなく「市場」がGoサインを出した ことで、製品化への道が拓けた。
「MESH」と「wena wrist」:初期の突破口
プログラム初期には、誰でも発明家になれるデジタルDIYキット「MESH」や、バンド部分に機能を凝縮したスマートウォッチ「wena wrist」が生まれた。 特にwenaは、新卒1年目の社員が起案したプロジェクトであり、「年次に関係なく、良いアイデアなら機会を与える」というSSAPのスタンスを社内外に強く印象づけた。これらの成功が呼び水となり、多くの社員が手を挙げる文化が醸成された。
「ノウハウ外販」という逆転の発想
2018年、ソニーはSSAPのノウハウを社外に開放し、京セラの子供向け仕上げ磨き用歯ブラシ「Possi(ポッシ)」や、LIXILのキャットウォール「猫壁(にゃんぺき)」など、他社の新規事業も支援し始めた。 これは単なるコンサルティング事業ではない。製造業の競合他社とも手を組み、「日本企業全体でイノベーションを起こす」というエコシステム作りへの挑戦である。結果として、新規事業部門自体が利益を生むプロフィットセンターとなり、制度の持続可能性(サステナビリティ)を盤石なものにしている。
「新規事業は『千三つ』と言われるが、プロセスを正しく踏めば、その確率は上げられる」——小田島伸至
学べること
- 「仕組み」そのものを事業にする: 新規事業部門はコストセンターになりがちだが、SSAPはそのノウハウ自体を外販することで、持続可能性を高めている。
- 品質基準の「翻訳」: スタートアップのスピード感と、ソニーブランドが求める品質基準(Quality Assurance)のバランスを取るために、新規事業専用の品質管理ルールを設けた点は、メーカーにとって非常に重要な示唆である。
- 「市場」を上司にする: 社内決裁でなく、クラウドファンディングの支援者数を判断基準にすることで、社内の政治的な壁を突破できる。


