課題・背景
アパレル業界は市場の飽和と 消費者の「所有から利用へ」の価値観シフト に直面していた。特に結婚式やパーティー向けのフォーマルドレスは着用頻度が極めて低く、購入をためらう消費者が増加していた。百貨店にとっても来店動機の創出が経営課題であった。
富士通は従来のSI(システム・インテグレーション)事業に加え、 デジタルビジネスの共創 による新たな収益モデルの構築を模索していた。顧客の業務システムを受託開発する従来型モデルから、自らサービスを設計しプラットフォームとして提供するモデルへの転換が求められていた。
取り組みの経緯
富士通は三越伊勢丹およびデザインファームの ARCHECO と3社共創のプロジェクトチームを組成した。ターゲットとしたのは、 「特別な日のおでかけ」に最適な1着を、プロの接客で選べるドレスレンタル という体験である。
2018年8月、銀座三越にドレスレンタルショップ「 CARITE(カリテ) 」がオープンした。2泊3日のレンタルで配送料・クリーニング代込みの 中心価格帯は12,000〜15,000円 。百貨店品質のドレスを手頃な価格で利用できるサービスとして設計された。
富士通はこのプロジェクトで構築した在庫管理・予約・決済の仕組みを、 「FUJITSU Retail Solution Dassen boutique シェアリングアプリ」 として2019年に製品化。小売業全般に向けたSaaS基盤として販売を開始した。
サービス・事業の概要
CARITEは、 「実店舗」×「接客」×「シェアリング」×「テクノロジー」 を掛け合わせたサービスである。利用者は銀座三越の店舗で百貨店のスタイリストによる対面コーディネートを受けながらドレスを選び、2泊3日でレンタルする。
シェアリング基盤「Dassen boutique」は、 デジタルでの在庫管理・予約管理・クリーニングステータスの追跡 を一元的に行うSaaSプラットフォームである。アパレルに限らず、あらゆる小売業がレンタル・シェアリングサービスを立ち上げる際の基盤として機能する。
2019年12月には、このプラットフォームを活用して「 手ぶら旅行サービス 」も開始した。宿泊先のホテルで旅行グッズのレンタル受取を可能にするサービスで、アパレルと旅行という 異なる業界の課題を「レンタル」という共通概念で横断 した。
成果と現状
CARITEは百貨店への来店動機の創出に貢献し、「 所有ではなく体験を売る 」百貨店の新しいビジネスモデルの可能性を示した。SaaS基盤の「Dassen boutique」は、小売業のシェアリングビジネス参入を技術的に支援する製品として市場に投入されている。
富士通はこの事業を通じて、SIerから 共創型デジタルビジネスの設計者 へという自社の変革を実践した。後に設立されたコンサルティング子会社 Ridgelinez にも、この共創の知見が引き継がれている。
この事例から学べること
第一に、「個別共創プロジェクト」を「汎用SaaS製品」に昇華する事業化パターンである。 富士通はCARITEという特定案件で磨いた仕組みを「Dassen boutique」として製品化した。1社との共創を1社限りで終わらせず、業界汎用のプラットフォームに昇華することで、単発の受託開発では得られないスケーラビリティを獲得した。
第二に、「売る」から「貸す」への転換を支える技術基盤の重要性である。 シェアリングビジネスは在庫の「所在」「状態」「予約状況」をリアルタイムで管理する仕組みが不可欠である。この技術的なハードルを下げるSaaS基盤を提供したことで、小売企業がシェアリングビジネスに参入する敷居を大幅に低下させた。
第三に、「異業種の課題を共通概念で接続する」用途拡張の発想である。 ドレスレンタルと手ぶら旅行は一見無関係だが、「必要なモノを必要な時だけ借りる」というレンタルの本質で接続できる。一つのプラットフォームで複数業界の課題を横断的に解決する視座は、新規事業のTAM(獲得可能市場)を拡大する鍵となる。


