課題・背景
日本の農業物流は慢性的な非効率を抱えている。 農作物の輸送は季節や収穫量によって需要が大きく変動 するが、個々の農家がその都度物流会社を手配するのは困難であった。一方、物流業界ではトラックの空車率の高さが経営課題となっており、特に農村部から都市部への片道輸送は帰り便が空になるケースが多い。
生産者と物流会社の間にマッチングの仕組みがないこと が、双方にとっての損失を生んでいた。農業のデジタル化は栽培管理や販売領域では進展が見られたが、収穫後の物流については依然としてアナログな手配が主流であった。
取り組みの経緯
CLOWの事業責任者である仲村氏は、住友商事での ブラジル駐在時代 にテクノロジーを活用した先進的な農業現場を目の当たりにした。日本の農業にもテクノロジーで変革を起こせるという確信を持ち、2019年に社内起業制度 「0→1チャレンジ2019」 に応募。農業物流のマッチングサービスのアイデアが優秀案として選出された。
仲村氏は20代の若手社員であったが、 0→1チャレンジは年次や役職に関係なく応募可能 な制度であり、「個人の情熱」を重視する選考基準が若手のチャレンジを後押しした。共同事業責任者の榎本氏とともに事業化に着手し、2020年10月には実証実験を開始した。
「総合商社若手エースが新規事業で挑む農業の物流改革」
サービス概要
CLOW は、AIを活用して農作物を出荷したい農家・農業法人と、輸送スペースを有効活用したい物流会社をマッチングするプラットフォームである。過去の出荷データをもとに AIが最適な集荷・配送ルートを算出 し、双方にとって効率的な輸送を実現する。
農家は出荷したい農作物の量と日時を入力するだけで、適切な物流パートナーとルートが自動的に提案される仕組みである。 物流会社側は空きスペースを有効活用できるため、空車率の削減と収益向上 が見込まれる。
成果と現状
2020年10月に開始された実証実験では、 東三温室園芸農業協同組合 (愛知県豊川市)が提供する過去の農作物出荷データをもとにCLOWが設定した集荷・配送ルートの効率性を、 日本通運 の協力を得て検証した。京都府京丹後市の株式会社丹後王国ブルワリーとも同様の実証が計画された。
CLOWのアルゴリズムの蓋然性検証に加え、アプリケーションの操作性についてもヒアリングを重ね、 サービスの市場投入に向けた改善 を進めている。総合商社の広範なネットワークを活かし、農業協同組合・物流企業・地方自治体など多様なステークホルダーとの連携を構築している点が特徴である。
「農業関連物流マッチングサービスの事業化に向けた実証実験の開始について」
この事例から学べること
第一に、海外駐在経験が社内起業の「種」になりうるという点である。 仲村氏のブラジルでの体験が、日本の農業物流という一見無関係な領域に革新をもたらすきっかけとなった。グローバル人材の多い総合商社ならではの新規事業パターンといえる。
第二に、「両面市場」の課題を解決する価値の大きさである。 農家の出荷ニーズと物流会社の空車問題は表裏一体であり、双方のペインを同時に解消するマッチングプラットフォームは市場創造型の事業モデルである。
第三に、20代社員でも大規模な実証実験を主導できる制度の力である。 0→1チャレンジが年次を問わない公平な選考を行い、選出後には外部アクセラレーターや社内リソースの支援が提供される仕組みが、若手の実行力を最大限に引き出した。


