課題・背景:ゲーム大手が直面するIP創出の難題
日本のゲーム業界では、長期間にわたって運営できるオリジナルIPの創出が企業の持続的成長の鍵となっている。サイゲームスは「グランブルーファンタジー」「シャドウバース」「プリンセスコネクト!Re:Dive」「ウマ娘プリティーダービー」など、 複数の大型オリジナルIPを自社開発・長期運営してきた実績を持つ ゲーム企業だ。
しかし、大ヒットIPの創出は再現性が低く、 大企業内部の均質な開発チームだけでは生み出せないクリエイティビティの多様性 が必要とされる局面がある。スマートフォンゲーム市場の成熟と競争激化を背景に、外部のクリエイターや企業との共同IP開発を通じて「次の10年を支えるIP」を作り出す必要性が高まっている。
IPの創造性と長期的価値を優先する企業姿勢が、サイゲームスを外部共創へ駆り立てている。
取り組みの経緯:外部共創の必然性
サイゲームスが外部共創に動いた背景には、IPビジネス自体の構造変化がある。かつてはゲームが起点で「ゲーム→アニメ→グッズ」という一方向の流れが主流だった。 今はアニメ・マンガ・ゲームが同時進行で展開する「IP同時多発型」のモデル が有力になっている。
ゲーム開発の技術力だけでは追いつけない。 アニメ・マンガ・音楽・リアルイベントの各メディアに精通したクリエイターや企業との連携 が不可欠だ。内製化(サイゲームスピクチャーズ設立など)を進める一方で、外部共創スキームを整備することで、より多様なIPを並行して開発できる体制を構築している。
また、 ウマ娘プリティーダービーのIP共創モデル (株式会社ライトバックとの権利関係等)は、キャラクターの権利を持つ既存組織と新規ゲーム開発者が連携する複雑な権利設計を実現した国内でも希少な先行事例として、業界内に知見を蓄積した。
サービス・事業の仕組み:共創スキームの構造
サイゲームスの新規IP共創スキームは、大きく「外部クリエイターとの共同開発型」と「企業間共同IP型」の2類型に分けて理解できる。
外部クリエイターとの共同開発型 では、原作者・キャラクターデザイナー・世界観設計者といった個人クリエイターとサイゲームスがIPを共同で開発する。権利の帰属設計が核心で、 「誰がIPの最終的な決定権を持つか」「各メディア展開の収益をどのように分配するか」 の設計次第で、クリエイターのコミットメントと創造性の引き出し方が大きく変わる。
企業間共同IP型 では、アニメ会社・音楽プロダクション・出版社など異業種との共同でIPを作り上げる。各社が持つ強みと顧客接点を組み合わせることで、ゲーム単体では届かない層へのリーチと、メディアミックス初動からのマルチチャネル展開を可能にする。
権利設計の基本原則は 「創造性を提供した者にアップサイドを設計する」 という考え方だ。すべての収益をサイゲームスが独占するのではなく、IPの成功に応じた収益分配をパートナーが受け取れる構造を作ることで、パートナーの「当事者意識」を引き出す。
共創の本質は、作ることの分担ではなく成功の共有にある。パートナーの参画を引き出すには、成功時の恩恵配分設計が欠かせない。
成果と現状:IP共創がもたらす競争力
サイゲームスの新規IP開発への投資は、 ゲーム単体を超えた「IPエコシステム」としての事業価値 を生み出している。「ウマ娘プリティーダービー」は2021年のリリース以降、国内有数のモバイルゲームとしてアニメ・音楽・グッズ・リアルイベントを組み合わせたIP事業の教科書的な成功事例となった。
外部共創型IPの強みは、 「ゲーム会社が持っていないクリエイティビティと顧客基盤を獲得できる」 点にある。自社単独では作り得なかった世界観・ストーリー・音楽がパートナーによってもたらされることで、ゲームの品質とIPとしての深みが増す。
2026年現在、サイゲームスは複数の新規IP開発プロジェクトを並行して推進しており、詳細は非公開だが 業界内ではその動向が大きな注目を集めている。
この事例から学べること
大企業と外部クリエイターの共創プロジェクトを複数観察してきた中で、権利設計の失敗による関係崩壊は「交渉力の差」ではなく「設計の段階」で生じることが繰り返し確認されている。成功したプロジェクトに共通するのは、「成功時にパートナーが十分な恩恵を受け取れるか」を設計者自身が最初に問う文化だ。
第一に、IP共創の成功は「権利設計の公正さ」で決まる。 外部クリエイターが「この会社とIPを作りたい」と思う最大の理由は、自分の創造性が尊重され、成功したときに相当の恩恵を受け取れるという信頼だ。 短期的な収益最大化のために権利を囲い込む設計は、長期的な共創パートナーシップを破壊する。
第二に、メディアミックスの設計は開発初期段階から行う必要がある。 ゲームが完成してからアニメ化・コミカライズを後付けで検討するのではなく、 IPの世界観設計・キャラクター設計・ストーリー構造をマルチメディア展開を前提に設計する ことで、各メディアの相互送客効果が最大化される。
第三に、共創スキームの制度化がスケールの鍵だ。 1件ずつのアドホックな共創ではなく、 「どのような条件でパートナーとIPを共同開発するか」という仕組みと基準を整備 することで、複数のIP共創プロジェクトを並行して管理できる組織能力が育つ。IPポートフォリオ経営には、個別プロジェクト管理の手法だけでなく、共創パートナーシップの制度設計が不可欠だ。
関連項目
参考文献・出典
- サイゲームス公式サイト(https://www.cygames.co.jp/)
- サイゲームスピクチャーズ公式サイト(https://www.cygamespictures.co.jp/)
- ファミ通「ウマ娘プリティーダービー ヒットの背景」(各号)
- 経済産業省「コンテンツ産業の未来戦略 2024」
- GameBusiness.jp 各種記事(サイゲームスIP戦略関連)