課題・背景:SIerがアクセラレーターを始めた理由
富士通がFUJITSU ACCELERATOR(富士通アクセラレーター)を2014年に開始した背景には、IT業界の構造変化がある。国内最大のITサービス企業として長らく「顧客のシステムを受託開発する」ビジネスモデルを主軸としてきた富士通にとって、2010年代以降のクラウドシフトとデジタル変革の加速は根本的な問いを突きつけた。「SIビジネスだけでは成長できない。自ら事業を共創するモデルへの転換が必要だ」という認識が、社外スタートアップとの協業プログラム立ち上げの動機となった。
スタートアップが持つ先進技術と身軽な意思決定速度、富士通が持つ顧客基盤・グローバルネットワーク・エンジニアリング力を組み合わせることで、双方が単独では実現できない価値を生み出す。これが富士通アクセラレーターの基本思想である。
取り組みの経緯:Uvance転換がプログラムを変えた
2022年、富士通は事業ブランド「Fujitsu Uvance(ユーバンス)」を打ち出した。これはITサービスを「受託する企業」から、社会課題解決を「ともに推進するパートナー」への変革宣言だった。Uvanceでは「Sustainable Manufacturing」「Healthy Living」「Consumer Experience」「Digital Shifts」「Built & Natural World」「Hybrid IT」「Data & Security」という7つのKey Focus Areasを設定し、富士通の事業投資とパートナーシップの優先領域を明確にした。
この戦略転換は、富士通アクセラレーターのプログラム設計にも直接影響を与えた。従来は「どんなスタートアップとも組む」という姿勢が強かったのに対し、Uvance以降はこれらの重点領域に関連するスタートアップとの共創に絞り込みが進んだ。テーマ設計の明確化により、協業検討チームとスタートアップのマッチング精度が向上し、PoC(概念実証)から事業化に至る確率が高まるという効果が生まれた。
サービス・事業の仕組み:4つのグローバルパートナー共創プログラム
富士通アクセラレーターは、現在4つのグローバルパートナー共創プログラムを軸に構成されている。各プログラムでは、富士通の事業部門からなる「協業検討チーム」とスタートアップが組み、テーマに沿った共創を進める。
プログラムの中核は富士通ベンチャーズとの連動だ。富士通アクセラレーターで事業可能性を検証したスタートアップに対し、資本提携を含むより深い連携を実現する「富士通ベンチャーズ」の支援が続く。プログラム参加→資本提携という段階的な関係構築モデルが、単純な資金提供にとどまらない実質的な事業共創を生む設計になっている。
2024年10月に開始した「FUJITSU ACCELERATOR for Gen AI」は、富士通の生成AI基盤「Fujitsu Kozuchi(コズチ)」を活用したプログラムだ。参加スタートアップはKozuchiの技術基盤を活用しながら、生成AIを用いた新サービス・ソリューションの開発に取り組む。富士通が持つAI技術と企業顧客基盤、スタートアップの機動力を組み合わせた共創が狙いだ。
「富士通アクセラレーターの主役はスタートアップです。私たちはあくまでも『仲人役』に徹する。スタートアップと富士通の事業部門が対等に向き合い、本音のビジネス議論ができる場を作ることが、このプログラムの本質的な役割です」
――富士通アクセラレーター担当者(Battery インタビュー)
成果と現状:9年間の実績とUvance Demo Day
富士通アクセラレーターは2024年で約10年目を迎えた。この間に数十社以上のスタートアップとの協業PoC・共同開発を推進してきた。事業化に至ったプロジェクト数の公開情報は限定的だが、2024年11月に開催された「Uvance Demo Day 2024」では、Uvance起点の共創成果として複数のプロジェクトが発表された。
スピーダ(Speeda)との共催で開催されたセミナー「9年目の”富士通式”スタートアップ共創術」(2024年)では、これまでの実績が公開されている。スタートアップ側からは「エンタープライズ企業との本格的なビジネス議論ができる場」として評価される一方、大企業側の意思決定スピードへの課題も率直に語られている。
この事例から学べること
第一に、アクセラレーターは事業戦略と一体設計することで初めて機能する。 富士通アクセラレーターがUvance転換後に焦点を絞ったように、「どんなスタートアップとも協業する」汎用型プログラムは、経営戦略との接続が弱くなりがちだ。共創テーマを自社の重点領域と明示的にリンクさせることで、協業後の事業化確率が高まる。
第二に、プログラムとCVC(資本)の連動設計が共創の深度を変える。 富士通ベンチャーズとの連動モデルが示すように、プログラム参加から資本提携への「段階的なコミットメント深化」の経路を設計することが、スタートアップ側の信頼獲得につながる。
第三に、自社の技術基盤をスタートアップに開放する「インフラ提供者」の役割が、差別化要因になる。 Gen AIプログラムでのKozuchi活用支援が典型例で、富士通固有の技術をスタートアップが活用できる仕組みを作ることで、他社との差別化が生まれる。単なる「場所の提供」ではなく「技術の提供」が共創の質を高める。
関連項目
参考文献・出典
- 富士通「FUJITSU ACCELERATOR」公式ページ — https://www.fujitsu.com/jp/innovation/venture/
- 富士通「富士通のスタートアップ共創」— https://www.fujitsu.com/jp/innovation/startup/
- Battery「主役はスタートアップ。“仲人役”に徹する『富士通アクセラレーター』の心意気を探る。」— https://relic.co.jp/battery/interview/22560
- スピーダ「9年目の”富士通式”スタートアップ共創術」(2024年11月)— https://jp.ub-speeda.com/seminar/20241105_cfcd/
- 富士通「Fujitsu Uvance Demo Day 2024」— https://www.fujitsu.com/jp/solutions/uom/uvance-demoday2024/