課題・背景
日本のシャインマスカットをはじめとする 生食用ぶどうの品質は世界でもトップクラス である。しかし、日本産ぶどうの生産は国内市場向けが中心で、世界市場における存在感は限定的であった。
一方、世界の果物市場では高品質な生食用ぶどうへの需要が拡大している。特にアジアを中心に、日本品種のぶどうへの関心は年々高まっているが、 日本国内の生産量は高齢化と担い手不足により縮小傾向 にある。供給と需要のギャップは広がる一方であった。
さらに、ぶどうは収穫期が限られるため、旬の時期以外に高品質な生食用ぶどうを安定供給することは困難である。北半球の日本では夏から秋にかけてしか収穫できず、通年での供給を実現するには南半球での生産拠点が不可欠であった。
なぜこの企業が取り組んだか
三井不動産は2018年に新規事業提案制度 「MAG!C」 を立ち上げた。「土地を買い、建物を建てて貸す」というこれまでの不動産事業とは異なるビジネスモデルを、全社から広く募る制度である。
GREENCOLLARの発案者である鏑木裕介氏は、以前からぶどう事業の可能性に注目していたが、当初は実現に至らなかった。MAG!Cの始動をきっかけに、上司の大場修氏や同僚の小泉慎氏とともに改めて応募した。 一度はボツになったアイデアを、公式な制度を通じて再提案 し、事業化を勝ち取ったのである。
きっかけとなったのは、オフィステナントであるナショナルオーストラリア銀行経由でニュージーランド大使館とつながり、日本とニュージーランドの両国でぶどう栽培を行っていた葡萄専心株式会社を紹介されたことだった。不動産業の「つながり」が農業の事業機会を生んだ、まさに異業種ならではの展開である。
「小泉がオフィステナント様であるナショナルオーストラリア銀行様伝いで、ニュージーランド大使館様とつながり、葡萄専心さんを紹介されたのが出発点でした」
――畑違いのぶどう事業に乗り出した社内起業家の「勝算」(Incubation Inside)
サービスの仕組み・差別化
GREENCOLLARのビジネスモデルの核心は、 北半球(日本)と南半球(ニュージーランド)の季節差を活用した通年生産 である。山梨県で夏から秋にかけて、ニュージーランドで冬から春にかけて収穫することで、 365日「旬のぶどう」を世界に届ける 体制を構築した。
栽培するのはシャインマスカットをはじめとした日本品種の高品質な生食用ぶどうである。大規模生産によるスケールメリットと、日本の栽培技術をニュージーランドに移転することで、品質と量産の両立を目指している。
さらに2021年からは 品種開発事業にも参入 し、ロイヤリティビジネスを見据えた独自品種の開発に着手した。栽培から品種開発まで垂直統合することで、長期的な競争優位の構築を図っている。「極旬」ブランドとして、高品質な日本品種ぶどうのグローバルブランド確立を目指す。
成長・成果
GREENCOLLARは2019年12月の設立から着実に事業を拡大してきた。MAG!C初の事業化案件として、三井不動産グループの社内ベンチャー成功モデルとなった。
2020年には山梨県とニュージーランドの2拠点での生産を本格化させ、本格始動を宣言。不動産会社が農業に参入するという異色の取り組みは多くのメディアに取り上げられ、 新規事業提案制度の成功事例 として注目を集めた。
「GREENCOLLARは、世界でオンリーワンの生食用ぶどうカンパニーを目指し本格始動しました」
――株式会社GREENCOLLAR 世界でオンリーワンの生食用ぶどうカンパニーを目指し本格始動(三井不動産 ニュースリリース, 2020年9月)
展開・進化
GREENCOLLARは「グリーンカラー」という新しい働き方の提案も掲げている。「しぜんと、生きる。」をビジョンに、都市と自然が共存する新たなライフスタイルの創造を目指す。品種開発からブランド構築、グローバル流通まで、農業の枠を超えた総合的なアグリテック事業への進化を続けている。
三井不動産にとっても、GREENCOLLARの成功はMAG!C制度の有効性を示す象徴的な事例となった。不動産という本業から大きく離れた領域でも、社員のアイデアと情熱を事業化できることを証明し、制度への社内求心力を高める効果をもたらしている。
この事例から学べること
第一に、「畑違い」だからこそ見える市場機会があるという点である。 農業の専門家ではない不動産会社の社員が、グローバルな需給ギャップと南北半球の季節差という構造的な機会を発見した。業界の「常識」にとらわれない視点が、新規事業の着想において大きな強みとなる。
第二に、新規事業提案制度が「再挑戦の場」として機能するという点である。 GREENCOLLARの原案は一度ボツになっている。MAG!Cという公式な制度が整備されたことで、過去に日の目を見なかったアイデアが再び評価される機会を得た。制度設計においては、こうした再挑戦を促す仕組みが重要である。
第三に、既存事業のネットワークが異業種参入の足がかりになるという点である。 オフィステナントとの関係からニュージーランド大使館、そしてぶどう栽培の専門企業へとつながった。大企業が持つ取引先ネットワークは、新規事業のパートナー探索において想像以上の価値を持つ。


