転職サービスの巨人が挑んだ「雇用の多様化」
「 HiPro Direct(ハイプロ ダイレクト) 」は、パーソルキャリアが運営する副業・フリーランス人材と企業をつなぐマッチングプラットフォームである。パーソルキャリアの社内ベンチャー第1号として2011年に始まった外部プロ人材活用サービスが原型であり、10年以上の進化を経て現在の形に至った。
パーソルキャリアは転職サービス「doda」で知られる人材業界の大手だが、雇用形態の多様化が進む中で「正社員転職」だけでは市場の変化に対応できないという課題を早くから認識していた。副業解禁やフリーランスの増加という潮流を捉え、「外部のプロフェッショナル人材を活用して経営課題を解決する」という新市場の開拓に挑んだ。
「i-common」から「HiPro」への進化
2011年にスタートした「 i-common 」は、事業会社やアカデミアで豊富な経験を積んだ上級役職者を、クライアント企業のアドバイザーとして紹介するサービスであった。従来の人材紹介とは異なり、「採用」ではなく「経営課題の解決」を目的とした業務委託型のマッチングという点が画期的であった。
サービス開始から10年で2,700社超の導入実績を積み上げた後、2022年7月にブランドを「 HiPro 」に刷新した。i-commonは「HiPro Biz」へ、ITエンジニア向けの「i-common tech」は「HiPro Tech」へと名称変更し、さらに2022年6月には副業・フリーランス人材と企業が直接つながる新サービス「 HiPro Direct 」をリリースした。3つのサービスを「HiPro」という統一ブランドに集約することで、「外部プロ人材活用の総合プラットフォーム」としてのポジショニングを確立した。
プラットフォームの規模と特徴
HiPro Directの最大の特徴は、企業と副業・フリーランス人材が 仲介なしで直接やり取りできるプラットフォーム型 のサービスモデルにある点である。従来のエージェント型(HiPro Biz)とプラットフォーム型(HiPro Direct)を併存させ、企業の課題の深さに応じて使い分けられる構造を設計した。
2025年時点で副業・フリーランスのプロ人材登録者は 10万名 を突破し、マッチングは延べ 2万件以上 、導入社数は 15,000社超 に達している。リモート副業案件が90%以上を占め、地方企業への副業マッチングも1,000件を突破した。活用テーマは「マーケティング・PR」が最多で、次いで「営業・販路拡大」「新規事業開発」と多岐にわたる。
成果と現状
2024年にはスタートアップの人材課題解決を目的として、副業・フリーランスのマッチングプラットフォームを 無償提供 する施策を開始した。同年10月には企業間で社員を相互に副業派遣できる「 相互副業マッチングプラットフォーム 」の提供も開始し、提供から8か月で28社・61名のマッチングが誕生している。
2025年6月にはサービス開始3周年を迎え、副業・フリーランスのプロ人材マッチングプラットフォームとして 導入社数No.1 を獲得した。転職サービスdodaとの連携も発表し、「採用」と「副業・フリーランス人材活用」の垣根を超えた統合的な人材戦略の提案を本格化している。
この事例から学べること
第一に、既存事業の「隣接領域」を社内ベンチャーで攻める戦略である。 パーソルキャリアはdodaという巨大な転職プラットフォームを持つが、その延長線上ではなく「副業・フリーランス」という隣接市場を社内ベンチャーとして開拓した。既存の企業・人材ネットワークという圧倒的な資産を持ちながら、新市場に特化した組織で攻める「両利きの経営」の好例である。
第二に、10年以上の「粘り強い事業育成」の成功モデルである。 2011年のi-common開始から2025年の導入社数No.1まで、14年をかけて市場を育てた。短期的なROIでは測れない新市場の開拓を、長期視点で支え続けたパーソルグループの経営判断が、現在の圧倒的な規模に結実している。
第三に、「社会課題の解決」と「事業成長」の一致である。 地方の人材不足、スタートアップの採用難、大企業社員の副業ニーズ。これらの社会課題に真正面から取り組むサービス設計が、結果として市場拡大のドライバーとなっている。


