課題・背景:銅需要急増と「再生材の見えない」問題
データセンター建設・EV普及・AI インフラ拡大が重なり、銅の需要が世界規模で急拡大している。採掘量だけでは需要増加に追いつかない状況が続く中、日本政府は2026年4月に「循環経済行動計画」を公表し、2030年時点で国内生産銅の約3割を再生資源由来とする目標を設定した。
しかし日本国内の循環経済推進には構造的な障壁がある。使用済みIT機器から回収された再生銅・再生アルミは品質や由来の情報が不透明で、「再生材が本当に使える品質かどうかわからない」という調達側の不信感が流通を阻んでいる。素材の品質情報をサプライチェーン全体で共有する仕組みが存在しないために、良質な再生材でも敬遠される状況が続いていた。
取り組みの経緯:「情報の流れ」と「モノの流れ」を一体設計する合弁
NTTと三菱マテリアルは、それぞれが持つ強みの組み合わせによってこの課題を解けると判断した。NTTはデータ流通・トレーサビリティ技術と業界横断プラットフォームの構築・運用実績を持つ。三菱マテリアルは世界最大級のE-Scrap処理能力を有する非鉄金属メーカーとして、回収から再資源化・再生材製造・販売の物理プロセスを担う。
2026年6月3日の発表によれば、設立予定日は2026年7月1日。資本金15億円(資本金7.5億円・資本準備金7.5億円)で、NTTが66.6%、三菱マテリアルが33.4%を出資する。代表取締役社長は宮崎敬樹が就任予定だ。
再生材の利用拡大と資源循環を推進する新会社「NTTサーキュラスト株式会社」を設立します。モノと情報の流れをつなぎ、再生材の利用拡大をめざします。
― NTT・三菱マテリアル 共同プレスリリース(2026年6月3日)
サービス・事業の仕組み:二本柱の事業構造
NTTサーキュラストの事業は2つの機能に分かれる。
第一の柱は「再生材の特性情報の伝達事業」だ。NTTのデータ流通技術を活用し、再生材の品質・由来・処理工程の情報をサプライチェーン内で透明かつ信頼性高く伝達する仕組みを構築する。「どこで回収され、どう処理され、どの品質か」が可視化されることで、再生材を積極採用できる環境が整う。
第二の柱は「再生材の製造・販売事業」だ。使用済みIT機器や通信設備を対象に、回収から再資源化・再生材製造・販売までの一貫フローを三菱マテリアルの処理能力で担う。NTTグループが保有・廃棄する大量のIT機器を安定した上流調達基盤として活用できる点が事業の安定性を支える。
この事例から学べること
- 「情報と物質の両方を扱える」組み合わせでなければ循環経済プラットフォームは機能しない。NTTと三菱マテリアルの合弁がそれを体現しており、単一事業体では埋められないギャップをJVで埋める戦略の典型例だ
- NTTグループが自社の廃棄IT機器を調達基盤として内製化した点は、「自社課題を市場機会に転換する」大企業新規事業の教科書的なパターンであり、外部スタートアップには真似しにくい参入障壁の源泉になる
- 政府の「循環経済行動計画」という政策目標に先んじて合弁設立を発表したタイミングは、規制・補助金・調達優先の恩恵を先取りする「政策フロンティア型」事業参入の事例として注目に値する