課題・背景:大企業グループが海外スタートアップと組む難しさ
NTTグループは国内外に100社超の事業会社を抱える大規模グループである。しかし各グループ会社が独立して海外スタートアップとの協業を探索する体制では、同じ地域で重複したアプローチが起きたり、有望なスタートアップへのアクセスが属人的なネットワーク依存になったりする非効率が生まれる。
また、海外スタートアップ側から見ると、「NTTグループ」という大きな組織のどの窓口にアクセスすれば協業に繋がるのかが不明確だ。グループ横断の窓口が存在しないことで、相互の探索コストが双方向に高い状態が続いていた。
取り組みの経緯:3年連続で進化する協業フレームワーク
NTTグループは2024年に「NTT Startup Challenge」を開始した。東南アジアを中心とした海外スタートアップを対象に、グループ会社複数社が連携して協業候補を探索するプログラムである。
第2回(2025年)ではピッチコンテスト「Pitch Day」への応募が約1,200社に達した。また、信頼できるパートナー企業が推薦するスタートアップとグループ会社をマッチングする「Partnership Day」には約150社が参加し、具体的な協業案件が複数創出された。
第3回(2026年)の発表は2026年5月25日。参加グループ会社を15社に拡大し、対象地域を従来の東南アジアからオーストラリア・インドを含むAPAC&Indiaに広げた。NTT DATA主催のオープンイノベーションプログラムと共催する形で「Partnership Day」をシンガポールで開催し、11月11日にはジャカルタでPitch Dayを実施する予定だ。
サービス・事業の仕組み:二段構えのスタートアップ発掘設計
NTT Startup Challengeの設計上の特徴は、推薦制と公募の二段構えによる発掘設計にある。
「Partnership Day」はパートナー企業や投資機関が推薦したスタートアップを対象とし、NTTグループ各社との個別マッチングセッションを行う。一定の信頼性が担保されたスタートアップを効率的に面談できる仕組みであり、シード〜アーリーステージより中後期の企業を主対象とする。
「Pitch Day」はエリア横断の公募ピッチコンテストだ。東南アジア・韓国・台湾・香港・オーストラリア・インドから広くアプリケーションを集め、書類審査を経た10社のファイナリストがジャカルタの会場で登壇する。グループ会社15社の担当者が聴衆となり、有望企業には投資・PoC・事業提携の各種形態で協業の扉が開かれる。
NTTグループのCVCビークル「Synexia Ventures」が直接投資を担うケースも設計に組み込まれており、プログラムから実際の出資までの一気通貫の流れが用意されている。
成果と現状:3年間で60件超の投資・提携案件
3年間のプログラム累積実績として、60件超の投資・提携案件が創出されている。具体例として、2026年4月にSynexia VenturesがSECAI MARCHEへの出資を実行したケースが公式に報告されている。Transcelestialへの投資もNTTのCVCビークル経由で実施された。
プログラムを重ねるごとに参加グループ会社数・対象地域・応募スタートアップ数のいずれも拡大しており、大企業グループ横断型の海外スタートアップ協業モデルとして定着しつつある。
「アジア太平洋・インド地域(APAC & India)でのスタートアップ連携による新規事業創造をめざす」
――NTT株式会社 ニュースリリース(2026年5月25日)
この事例から学べること
NTT Startup Challengeが示す第一の教訓は、グループ横断の共同窓口を作ることで、大企業側とスタートアップ側の双方の探索コストが下がるという点だ。「NTTグループ」という一枚看板を掲げることで、スタートアップ側の接点形成が容易になり、グループ内の重複アプローチも解消される。
第二の教訓は、推薦制と公募の設計を並走させることの有効性だ。推薦制は質を担保し、公募は量と多様性を確保する。この二段設計が年間1,000社超のスタートアップとの接触機会を生み出しながら、有望企業への絞り込みを可能にしている。
第三の教訓は、3年連続で同一フレームを改善・拡張する継続性の重要性だ。毎年リニューアルではなく、実績を積み上げながら地域・規模・参加企業数を段階的に拡大する運営が、プログラムの信頼性と参加者の期待値を高めてきた。