課題・背景
日本は地震・台風・豪雨などの自然災害が頻発する国であり、 企業のBCP(事業継続計画)対策は経営上の必須課題 となっている。しかし、多くの中小企業ではBCP策定のノウハウが社内に存在せず、対策の優先順位も分からないまま放置されている実態がある。
大企業においてはBCPの専門チームが設置され体系的な取り組みが進んでいるが、 そのノウハウは各社内に閉じたまま であった。防災コンサルティング市場はあるものの、「実際に大企業のBCPを運用した経験者」による実務的なサービスは希少であった。
取り組みの経緯
明電舎は全社的な危機管理体制の構築を推進し、 2019年に「BCAOアワード」優秀実践賞を受賞 するなど、BCP分野で高い実績を持つ企業であった。この推進チームの中核メンバーであった沖山雅彦と伊東隼人の2名が、「自社の防災・BCPノウハウを社外に提供するサービス」というアイデアを着想する。
2名は明電舎の社内新規事業開発プログラムに応募し、 400件の応募の中から30件の検討テーマに選出 された。その後、経済産業省の「出向起業等創出支援事業」の存在を知り、明電舎に在籍したまま独立法人を設立するという「出向起業」の道を選択した。2021年8月、株式会社レジリエンスラボが設立された。
「明電舎グループの危機管理体制構築が外部から評価された経験が、このノウハウを他社にも提供できるのではないかという確信につながった」
――レジリエンスラボ 明電舎発の「出向起業」で叶えた、新たなビジネス(Incubation Inside)
サービス概要
レジリエンスラボの事業は2つの柱で構成される。第一は 「BCP対策デザイン事業」 で、BCPの体制・仕組みの構築、マニュアルやツール類の作成、訓練の企画・実施をトータルで支援する。明電舎での実務経験に基づく「本当に使えるBCP」の設計が強みである。
第二は 「BCPチャージ」 と呼ばれる共同備蓄サービスである。大規模災害時に必要となる非常用電源や燃料などのエネルギーを、会員企業同士で共同備蓄・シェアする仕組みである。中小企業が単独で大量の備蓄を確保することは資金的に困難だが、 複数企業でシェアリングすることで一社あたりの負担を軽減 できる。
成果と現状
レジリエンスラボは2021年の設立後、 経済産業省「出向起業等創出支援事業」に正式採択 され、補助金を活用した事業立ち上げを加速した。BCP対策デザイン事業では複数の企業・自治体への導入実績を積み上げ、BCPチャージの会員基盤も拡大を続けている。
明電舎にとっても、レジリエンスラボの設立は「出向起業」という新たな社内起業モデルの先行事例となった。電気機器メーカーという本業とは異なるコンサルティング領域での事業化は、大企業が持つ 「ナレッジ資産」の収益化 という新たな可能性を示している。
この事例から学べること
第一に、大企業の「管理部門ノウハウ」が外販可能な事業資産になるという発見である。 防災・BCP推進は一般に「コストセンター」と見なされるが、レジリエンスラボはその蓄積された知見を「プロフィットセンター」に転換した。総務・管理部門の専門知識が新規事業のシーズになり得ることを証明した事例である。
第二に、「出向起業」制度が大企業人材の起業リスクを大幅に下げるという点である。 沖山・伊東の両氏は明電舎に在籍したまま独立法人を設立できた。雇用を維持しながら起業に挑戦できるこの仕組みは、大企業における社内起業の有力な選択肢である。
第三に、「共同備蓄」というシェアリングモデルの応用可能性である。 BCPチャージは防災備蓄という特定領域の課題に対し、所有から共有への転換を提案した。単独では手が届かない中小企業に対して、シェアリングで参入障壁を下げるアプローチは、他の領域にも応用可能な設計思想である。


