ATMという「レガシー資産」の再発明
セブン銀行 は、全国のセブン-イレブンを中心に 2万7,000台超 のATMネットワークを展開する銀行である。キャッシュレス決済の普及により「ATMの役割は縮小する」という見方が広がる中、同社はATMを 金融に留まらない「あらゆるサービスの接点」 へと再定義する新規事業を複数展開している。
その推進力となっているのが、2016年から毎年開催している「 セブン銀行アクセラレータープログラム 」である。スタートアップとの共創を通じて、ATMや金融の既成概念を超えたサービスの事業化を目指すこのプログラムは、累計 200社超 の応募企業との取り組みを重ねてきた。
アクセラレーターが生む継続的な事業創出
セブン銀行のアクセラレータープログラムは、スタートアップのアイデアとセブン銀行グループのアセット(ATMネットワーク、口座基盤、グループ企業との連携)を掛け合わせた新サービスの共創を目的とする。毎年テーマを設定し、口座不要のB2C送金(ATM受取)の新用途、海外ATMネットワークを活かした金融サービスなど、多様な領域でパートナーを募集している。
採択企業には事業開発の伴走支援が提供され、セブン銀行側も専任チームが共同で事業仮説の検証とプロダクト開発に取り組む。単なるピッチコンテストではなく、 実際の事業化を前提とした協業プログラム である点が特徴である。
+Connect ― ATMを「万能窓口」に
2023年9月に提供を開始した「 +Connect(プラスコネクト) 」は、ATMをあらゆる手続き・認証の窓口にすることを目指す新サービスプラットフォームである。第1弾として「 ATM窓口 」と「 ATMお知らせ 」の2サービスを開始した。
「ATM窓口」では、金融機関の口座開設や届出情報の変更といった手続きがATM上で完結する。「ATMお知らせ」では、届け出情報の確認催促や金融商品の案内をATMの画面で行う。さらに2024年には、人材サービス企業エントリーとの基本合意により、 金融機関以外で初めて のATM窓口サービス導入を実現した。本人確認が必要な会員登録や取引開始手続きを、マイナンバーカード対応のATMで完了できるようにするものである。
NFT募金とコレカブ ― 新たな体験の実験
2023年7月には、ATMで募金するとNFT(非代替性トークン)アート作品が配布される「 ATM NFT募金キャンペーン 」を実施した。配布されるNFTは譲渡不可能な「Soul Bound Token」形式で、社会貢献活動に参加した証として長期保有できる設計である。環境貢献をコンセプトにしたデジタルアート作品がATMから直接受け取れるという体験は、銀行×Web3の先駆的な取り組みとして注目された。
また、Myセブン銀行アプリから 1株単位 で株式売買ができる「 お買い物投資コレカブ 」も開始した。数百円から取引可能で、投資の心理的ハードルを大幅に下げている。
成果と現状
セブン銀行の新規事業戦略は、「ATMという既存の物理インフラを、金融以外の用途に開放する」という一貫した方向性のもと、複数の事業を同時並行で展開するポートフォリオ型のアプローチである。アクセラレータープログラムは2025年も継続開催されており、外部との共創パイプラインが途切れることなく維持されている。
+ConnectによるATM窓口サービスの非金融分野への拡大は、ATMの利用頻度を維持・向上させるとともに、セブン銀行の収益源を金融手数料以外に多角化する戦略的な意味を持つ。
この事例から学べること
第一に、「衰退が予測されるインフラ」の再定義によるイノベーションである。 キャッシュレス時代にATMは「不要になる設備」と見なされがちだが、セブン銀行は逆に「全国2万7,000台の本人確認端末」「24時間稼働のサービス窓口」としてATMを再定義した。既存インフラの「別の使い方」を発明することが、新規事業の起点となる好例である。
第二に、アクセラレータープログラムの「継続運営」による複利効果である。 2016年から毎年継続し、200社超との接点を構築してきた蓄積は、一過性のイベントでは得られない。毎年の開催でスタートアップ業界での認知が高まり、質の高い応募が集まる好循環が回っている。新規事業の仕組みは「始めること」より「続けること」に価値がある。
第三に、「物理×デジタル」のハイブリッドな顧客接点の価値である。 NFT募金やコレカブなどデジタルサービスを、ATMという物理的な接点と組み合わせている。完全デジタルでは届かない層(高齢者、デジタルリテラシーの低い層)にもリーチできるATMの強みを活かしたサービス設計が、差別化の源泉となっている。


