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事業事例

大鵬イノベーションズ、CVC戦略で創薬スタートアップが生まれない構造に挑む

大鵬薬品工業株式会社
製薬 / バイオテック #CVC #創薬 #バイオテック #スタートアップ支援 #オープンイノベーション
事業・会社概要
事業会社
大鵬薬品工業株式会社
業界
製薬 / バイオテック
開始年
2016年

History & Evolution

2016年

Taiho Ventures 投資活動開始

下村俊泰氏が大鵬薬品工業のCVC投資活動(Taiho Ventures名義)を開始。外資系製薬での創薬経験を投資判断に活かす体制を構築。

2025年

PRD Therapeutics、臨床フェーズへ

投資先の北里大学発スタートアップ・PRD Therapeutics(累計調達13億円)が臨床フェーズに移行。2025年中にフェーズ1完了を目指す。

課題・背景:日本に創薬スタートアップが生まれない構造

米国や欧州と比較して、日本は創薬スタートアップの設立・成長が著しく少ない。この背景には複数の構造的要因が絡み合っている。

第一は人材流動性の低さだ。製薬企業やアカデミアの間で人材が移動するエコシステムが整っておらず、起業を志す研究者が孤立しやすい。第二は日本固有の薬価制度の問題で、「売れれば売れるほど薬価が下がる」構造が、スタートアップの収益モデルを成立しにくくする。第三はアーリーステージを評価できるVC専門人材の不足であり、創薬の深い科学知識を持った投資家が少ないため、優れた研究シーズがあっても資金調達が困難な状況が続く。

さらに「苦し紛れの上場」という問題もある。研究開発費が最も必要な段階での早期IPOを余儀なくされるケースが多く、上場後の研究継続が経営上の重荷になる構造だ。

取り組みの経緯:Taiho Venturesから大鵬イノベーションズへ

大鵬イノベーションズは大鵬薬品工業のCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)部門として機能する組織だ。代表の下村俊泰氏は外資系製薬企業での創薬経験を持ち、2016年からTaiho Ventures名義でCVC投資活動を開始した。10年近い投資実績が、現在の大鵬イノベーションズの投資哲学の基盤となっている。

戦略の核心は「専門家同士が集まってやるからこそ、スピードが上がり、成功確率も上がる」という信念にある。オンコロジー(がん領域)と免疫疾患という2領域への集中は、汎用的なCVCとの明確な差別化を生む。専門性による信頼が、大学発スタートアップへのアクセス力を高める。

サービス・事業の仕組み:投資前インキュベーションという独自手法

大鵬イノベーションズが他のCVCと一線を画すのが、「投資前のインキュベーション研究」という手法だ。通常のCVCが既存の研究成果を評価してから投資判断を行うのに対し、大鵬イノベーションズは投資前の段階から大学研究者と共同研究を実施する。

この共同研究では主に3つのことを行う。特許戦略の整理(どの発見が特許になりうるかの精査)、動物実験による安全性の検証(副作用・毒性の事前確認)、そして臨床に近い動物モデルでの有効性検証だ。このプロセスを経ることで、「データの信頼性を自ら確認してから投資する」という判断の質を確保している。

若い経営人材の育成も事業の核を成す。シリアルアントレプレナーの循環促進、大学院生段階からの起業家教育、研究者と経営者の役割を分離する体制の構築——創薬の科学的価値を事業として成立させるには、研究を深める人材と経営を担う人材が互いに専門性を発揮できる環境が必要と位置づけている。

また、エーザイ・塩野義製薬・アステラス製薬も参加するアクセラレーションプログラムを通じ、大手製薬企業の専門人材がプロボノとして創薬スタートアップを支援する仕組みを構築。製薬大手の知見を、スタートアップへの価値提供として循環させる設計だ。

成果と現状:臨床フェーズに到達した投資先

投資先の具体的な成果として、PRD Therapeutics(北里大学発スタートアップ、累計調達額13億円)が2025年から臨床フェーズに移行した。2025年中のフェーズ1完了を目指している。もう一社の投資先StapleBio(熊本大学発、累計調達額4.6億円)は次世代核酸医薬品の開発を進行中だ。

いずれも大学発の創薬スタートアップであり、アカデミアのシーズを事業化できる投資・育成の場としての大鵬イノベーションズの役割が具体的な形として現れている。

この事例から学べること

「投資前インキュベーション研究」は、CVCの投資精度と支援深度を同時に高める。 通常のVC・CVCは既存データを評価して投資判断を下すが、大鵬イノベーションズは投資前段階から研究に関与することでデータの信頼性を自ら検証する。これはリスク低減だけでなく、スタートアップ側への「研究パートナー」としての価値提供でもある。資金提供以上の関与が、大学研究者との信頼関係を生む。

領域の絞り込みが、CVCの存在意義を明確にする。 「何でも投資するCVC」はスタートアップ側から見て差別化されていない。がん・免疫疾患という絞り込みは、「この領域なら大鵬イノベーションズ」という認知と信頼を形成する。専門性こそが、資金力で上回る大手VCに対する差別化要因だ。

日本の創薬スタートアップ不足は「薬価制度・人材流動性・VC専門性」の複合問題であり、単一の施策では解決しない。 構造的な課題群を「人材育成」「投資前関与」「大手製薬との協力体制」という複数のレイヤーで同時に取り組む大鵬イノベーションズのアプローチは、大企業CVCが社会課題解決の担い手になりうることを示している。

関連項目

参考文献・出典

  • xTECH(メック)「大鵬イノベーションズ 代表インタビュー:創薬スタートアップが生まれない日本の構造に挑む」— https://xtech.mec.co.jp/articles/12202

成功の鍵

1

領域特化による専門性の集中

がん領域(オンコロジー)と免疫疾患に絞り込むことで、投資判断の質とスタートアップへの支援深度を最大化している。創薬の専門知識が乏しい汎用CVCとの差別化要因。

2

投資前インキュベーション研究の実施

投資判断前に大学研究者と共同研究を行い、特許戦略の整理・動物実験による安全性検証・臨床に近い動物モデルでの検証を実施。データの信頼性を自ら確認してから投資する独自手法。

3

製薬大手ネットワークとの協力体制

エーザイ・塩野義製薬・アステラス製薬も参加するアクセラレーションプログラムを活用。大手製薬の専門人材がプロボノとしてスタートアップを支援する仕組みを構築している。

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