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事業会社

積水化学工業

積水化学工業 ロゴ

Sekisui Chemical Co., Ltd.

化学メーカー大手。「新しいものは楽しい」という動機を原動力に、楽しさ起点のイノベーションを推進。

企業概要
企業名
積水化学工業
業種
化学 / 住宅
所在地
大阪府大阪市北区
創業
1947年
公式サイト
www.sekisui.co.jp

新規事業の歴史

History & Evolution

1947

積水産業として創業

日本窒素肥料の技術者が集い、プラスチック製品の製造を開始。戦後復興を支える素材メーカーとしてスタート。

1960

エスロンパイプで住インフラ事業確立

塩化ビニル管「エスロンパイプ」が全国の水道インフラに採用され、住環境事業の基盤を築く。

1970

セキスイハイム発売

ユニット工法による工業化住宅「セキスイハイム」を発売。化学メーカーが住宅事業に進出する異色の多角化。

2006

メディカル事業参入

第一化学薬品をグループ化し、臨床検査薬事業に本格参入。3カンパニー体制が確立する。

2020

新事業開発部を設置

全社横断のイノベーション推進体制を整備。翌年、社内公募の7名でイノベーション推進グループを立ち上げ。

2023

C.O.B.U.アクセラレーター始動

社内ビジネスコンテスト第1期に206件のアイデアが集まり、「制度から風土へ」の転換が始まる。

2025

積水ソーラーフィルム設立

日本政策投資銀行と共同でペロブスカイト太陽電池の製造・販売会社を設立。総投資額約900億円の大型事業。

積水化学工業の新規事業の歴史

積水化学工業は1947年の創業以来、プラスチック加工技術を基盤に事業領域を拡大してきた総合化学メーカーである。高機能プラスチックス、住環境(セキスイハイム)、メディカルの 3つのカンパニー を擁し、素材技術を核とした多角化の歴史そのものが、同社のイノベーションDNAを形作っている。

1960年代に塩化ビニル管「エスロンパイプ」で住インフラ市場を開拓し、1970年にはユニット工法による工業化住宅 「セキスイハイム」 を発売した。化学メーカーが住宅事業に進出するという大胆な多角化は、素材技術の応用範囲を大きく広げる転換点となった。2006年には第一化学薬品のグループ化により臨床検査薬事業にも参入し、現在の3カンパニー体制が確立している。

長期ビジョン 「Vision 2030」 では「Innovation for the Earth」を掲げ、社会課題の解決を通じたイノベーション創出を経営の中心に据えた。2030年までに社会課題解決への貢献を倍増させるという目標のもと、既存事業の融合から新たなイノベーションを生む「革新領域」の育成を加速させている。

「積水化学グループの歴史は、くらしの根幹にある社会課題を解決するイノベーションの歴史である。プラスチックの可能性を信じ、住まい・社会インフラ・ライフサイエンスへと技術を展開してきた」

――ペロブスカイト太陽電池など革新的技術を次々に生み出す源流(PR TIMES STORY)

新規事業戦略の特徴

積水化学工業の新規事業戦略は、社内起業制度・研究開発投資・外部人材活用を組み合わせた多層的なアプローチが特徴である。特筆すべきは、「楽しさ駆動」という独自の哲学が戦略全体を貫いている点だ。

第一の柱はC.O.B.U.アクセラレーターである。 2020年に新事業開発部を設置し、翌2021年に社内公募で集まった 7名 でイノベーション推進グループを立ち上げた。同グループは「企画創出」「オープンイノベーション」「C.O.B.U.アクセラレーター」の3機能を持ち、社内外からのイノベーション創出を統合的に推進している。

「C.O.B.U.とは、Community Of Brave Unicorns(勇気を持って一歩踏み出すコミュニティ)の頭文字を取ったもの。自分たち自身はもちろん、積水化学グループで働くすべての人たちも『鼓舞』していきたいという気持ちが込められています」

――積水化学が新規事業創出の社内ビジネスコンテストを開催(PR TIMES STORY, 2023年9月)

第二の柱はディープテックへの大型投資である。 フィルム型ペロブスカイト太陽電池の量産化に向け、シャープの堺工場を取得し 総投資額約900億円 を投じる決断を下した。経済産業省の「GXサプライチェーン構築支援事業」として 最大約1,572億円の補助金交付 も決定しており、2027年に年産100MW体制、2030年にはGW規模への拡張を目指す。

第三の柱は外部プロ人材の活用である。 パーソルキャリアの「HiPro Direct」を通じて副業・フリーランス人材を活用し、限られた時間の中で市場の声や専門家の意見を効率的に収集する体制を構築している。社内リソースだけでは不足しがちな市場検証の質を、外部の知見で補完する仕組みだ。

代表的な事業事例の深掘り

ペロブスカイト太陽電池の量産化

積水化学工業のフィルム型ペロブスカイト太陽電池は、 発電効率15.0%、屋外耐久性10年相当 を達成した。従来のシリコン型太陽電池では設置できなかったビルの壁面や曲面にも貼り付けられる軽量・柔軟な次世代太陽電池であり、同社の封止・成膜・材料・プロセス技術の集大成といえる。

2025年1月には日本政策投資銀行と共同で 「積水ソーラーフィルム株式会社」 を設立した。積水化学が86%、日本政策投資銀行が14%を出資する体制で、2027年4月の製造ライン稼働を目指す。

「積水化学がフィルム型ペロブスカイト太陽電池の量産化を決め、2027年に年産100MW体制を築き、30年にはGW規模への拡張を目指す」

――積水化学、ペロブスカイト太陽電池の量産開始へ(PVeye, 2025年1月)

この事業は、化学メーカーとしての素材技術が新エネルギー領域で花開いた好例である。研究開始から量産決定まで 約12年 を要しており、長期的な研究開発投資の成果がようやく事業化に結実した形だ。2025年には大阪・関西万博のバス停屋根にペロブスカイト太陽電池を設置し、 約250メートル にわたって蓄電・LED照明に活用する実証も行われた。さらに2025年10月には、NTTデータや日軽エンジニアリングと共同でビル外壁への設置工法の改良開発を開始している。

C.O.B.U.アクセラレーター第1期

第1期(2023年度)には、1か月半の募集期間でグループ全体から 206件のアイデア応募 が集まった。想定の2倍を超える応募数であり、その半数以上が新規事業に関与した経験のない「現場」からの挑戦者であった。プログラムは ステージゲート方式 で構成され、ステージ1では20件を採択して約3か月間の仮説検証を実施し、ステージ2では5件に絞り込んで約6か月間の顧客検証を行う。

最終採択された起案者はイノベーション推進グループに異動し、約1年間の事業化準備に専念する。審査会でのプレゼンは凝った演出で全社に公開され、登壇者がヒーローになるようなステージづくりが意識されている。2025年には 「ビジコンAWARDS 2025」の最終ノミネート企業 に選出された。

キーパーソンと組織文化

積水化学工業のイノベーション推進において中心的な役割を果たしているのが、イノベーション推進グループの イノベーション鈴木 である。「新しいものは楽しい」という動機を原動力に、義務感ではなく 好奇心を駆動力 とすることで、社員の自発的な参加と創造性の発揮を促している。

C.O.B.U.アクセラレーターの設計思想には、「制度から風土へ」という明確な志向がある。単にビジネスコンテストを開催するのではなく、挑戦を当たり前にする 組織文化の構築 を最終目標に据えている。参加者の半数以上が企画未経験者であるという事実は、専門性よりも意志と好奇心が重要であることを示している。

「積水化学は『制度から風土へ』を掲げ、挑戦を当たり前にする組織文化の構築を目指している。社内起業プログラムに加え、外部のプロ人材を活用した伴走支援も導入し、起案者の仮説検証の質を高めている」

――【制度から風土へ】挑戦を当たり前にする積水化学の挑み方(PR TIMES STORY, 2025年)

制度設計にはアーキタイプ社が初期段階から携わり、事務局の運営サポートや参加チームへの伴走支援を行っている。起案者一人ひとりの挑戦を讃える「ヒーロー化」の舞台づくりと運営事務局の熱量が、プログラムの実効性を支えている。

成功と失敗から学べること

積水化学工業の事例から学べる最大の教訓は、 「楽しさ駆動」と「長期R&D投資」の両輪 が素材メーカーのイノベーションには不可欠であるという点だ。ペロブスカイト太陽電池は研究開始から量産決定まで約12年を要しており、短期的なROIでは正当化しにくい投資である。一方、C.O.B.U.アクセラレーターは「楽しさ」を原動力に、半数以上が企画未経験者という現場の社員を巻き込むことに成功した。

化学メーカーが直面する普遍的な課題は、「優れた素材技術を持ちながら、最終製品としての事業化に至らない」ケースが多い点である。技術シーズを市場ニーズと結びつける「翻訳者」の存在が鍵を握り、積水化学ではHiPro Directなどの 外部プロ人材 がこの役割を果たしている。社内リソースだけでは不足しがちな市場検証の質を、外部の知見で補完する発想は他の素材メーカーにも応用可能だ。

「制度から風土へ」という志向は、単発のビジネスコンテストではなく 持続的な挑戦の文化 を築く上で重要な示唆を与える。応募者を「ヒーロー」として全社に紹介する演出は、挑戦のハードルを下げ、次の挑戦者を生む好循環を設計している。

今後の展望

積水化学工業の今後の焦点は、 ペロブスカイト太陽電池の量産化と市場浸透、そして C.O.B.U.アクセラレーターの継続的発展 の2軸にある。

ペロブスカイト太陽電池については、2027年の製造ライン稼働後、ビルの壁面・屋上・農業施設など従来型太陽電池では対応できなかった設置場所への展開が期待される。2026年度末には 1メートル幅の製品 の投入も予定されており、既存設備を活用した早期の商用化を目指す。塗工技術のプロフェッショナルである清水氏が社長に就任したことも、 「ペロブスカイトシフト」 を象徴する人事として注目されている。政府のGX政策とも連動し、国産エネルギー技術としての戦略的重要性も高まっている。

C.O.B.U.アクセラレーターは、第1期の成功を基盤に参加者の裾野をさらに広げる段階にある。「制度から風土へ」の転換が進めば、素材メーカーならではの技術シーズと現場の課題意識が結びつき、化学の枠を超えた新事業が生まれる可能性がある。長期ビジョン「Vision 2030」の達成に向け、既存3カンパニーの技術融合から「革新領域」をどこまで拡大できるかが、同社のイノベーション力の真価を問う試金石となるだろう。

関連項目

成功の鍵

1

C.O.B.U.アクセラレーター(楽しさ駆動の社内起業)

義務感ではなく好奇心を原動力に、全社員が挑戦できるステージゲート型プログラムを運営。

2

ペロブスカイト太陽電池(ディープテック投資)

自社の封止・成膜技術を活かし、次世代エネルギー事業にGW規模の大型投資を決断。

3

外部プロ人材の活用(オープンイノベーション)

HiPro Directなど副業人材マッチングを活用し、仮説検証の質とスピードを向上。

4

制度から風土へ(文化醸成)

起案者を「ヒーロー化」する演出や全社公開プレゼンで、挑戦を当たり前にする組織文化を構築。

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