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用語集

エフェクチュエーション

エフェクチュエーション(Effectuation) とは、バージニア大学のサラス・サラスバシー教授が提唱した、熟達した起業家に共通する意思決定理論である。あらかじめ目標を設定してから手段を探す従来型の「コーゼーション(因果論的)」アプローチとは対照的に、今ある手持ちの資源(自分は誰か、何を知っているか、誰を知っているか)を出発点として、新しい事業機会を創造するプロセスを体系化した。

日本企業の新規事業開発やイントラプレナー育成プログラムにおいて、エフェクチュエーションの考え方を取り入れる動きが広がっている。以下では、5つの原則、コーゼーションとの違い、大企業での実践方法について解説する。


「まず目標を決めろ」の呪縛

大企業の新規事業開発では、「まず事業目標を設定し、そこから逆算して計画を立てる」というアプローチが標準とされている。市場規模を推定し、売上目標を立て、必要なリソースを算出し、実行計画に落とし込む。

しかしこのやり方は、市場が存在するかどうかすら不確実な新規事業には適さない。

存在しない市場の規模を推定し、達成不可能な精度の売上予測を求められる。結果として、新規事業担当者は「 計画づくり」に膨大な時間を費やし、肝心の 顧客接点や仮説検証が後回し になる。

不確実性の高い領域 で、確実性を前提とした意思決定プロセスを適用すること自体が、イノベーションの阻害要因となっている。

完璧な事業計画が半年で陳腐化した

ある大手商社の新規事業チームは、6か月をかけて 100ページ超の事業計画書 を作成した。市場調査、競合分析、財務シミュレーション、リスク分析まで網羅した精緻な計画だった。

しかし、計画が社内承認を得て実行フェーズに入った時点で、前提としていた 市場環境が大きく変化 していた。計画の修正には再度の稟議が必要となり、さらに 3か月のロス が生じた。この間に、手持ちのリソースで素早く動いたスタートアップが先行者優位を確立していた。「 完璧な計画」を追求すること自体がリスク となる、不確実な環境の本質を示す事例である。

エフェクチュエーション5つの原則で不確実性に対応する

エフェクチュエーションは5つの原則で構成される。第一に「 手中の鳥の原則」。新しいリソースを獲得するのではなく、今手元にある資源(知識、経験、人脈)から出発する。第二に「 許容可能な損失の原則」。期待リターンではなく、失っても許容できる範囲でコミットする。

第三に「 クレイジーキルトの原則」。競合を分析するのではなく、パートナーシップを構築して不確実性そのものを減らす。第四に「 レモネードの原則」。予期しない出来事を障害ではなく機会として活用する。第五に「 飛行機のパイロットの原則」。予測ではなく、コントロール可能な範囲で未来を自ら創造する。

これらの原則は、リーンスタートアップの「構築-計測-学習」サイクルや、デザイン思考の「プロトタイピング重視」と親和性が高い。

手持ちの資源の棚卸しから始める

エフェクチュエーションを実践するための第一歩は、「手持ちの資源の棚卸し」である。具体的には、3つの問いに答える。「自分は誰か(アイデンティティ、価値観)」「何を知っているか(専門知識、スキル)」「誰を知っているか(社内外のネットワーク)」。

この棚卸しの結果から、「 今すぐ始められること」を特定する。次に、許容可能な損失を明確にする。新規事業に投入できる時間・予算・人員の上限を定め、その範囲内で最初の一歩を踏み出す。大きな計画を立てる前に、 小さなアクションを積み重ねる ことがエフェクチュエーションの本質である。

不確実性の高い領域に挑むチームに最適

エフェクチュエーションの考え方が特に有効なのは、次のような場面・人物である。市場が未成熟で、信頼できる市場データが存在しない領域で新規事業を立ち上げるチーム。大規模な初期投資が難しく、限られたリソースで成果を出さなければならないイントラプレナー

また、既存の事業計画フォーマットに当てはまらない、探索型の新規事業開発に取り組む担当者にとって、エフェクチュエーションは「計画がなくても動き出せる」理論的根拠を提供する。社内説得の場面でも、「起業家研究に基づく科学的なアプローチ」として提示できる点が強みである。

3つの問いに答えて最初のアクションを決めよう

具体的なアクションとして、まずチーム全員で「自分は誰か」「何を知っているか」「誰を知っているか」の3つの問いに対する答えを書き出そう。次に、それらを組み合わせて「今週中にできる最小のアクション」を1つ決め、実行する。

例えば、「知り合いの顧客企業の担当者に連絡して、課題についてヒアリングする」といった小さな行動でよい。その結果から新たな資源や機会が生まれ、次のアクションが見えてくる。ゼロ・トゥ・ワンの発想と組み合わせ、予測不能な未来を「自ら創る」マインドセットを養っていこう。

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