新規事業提案制度
新規事業提案制度(New Business Proposal System) とは、社員が新規事業のアイデアを公募形式で提案できる社内制度のことである。「社内公募制度」「社内ビジネスコンテスト」とも呼ばれる。
イントラプレナー(社内起業家)を発掘・育成するための最も体系的な仕組みであり、リクルートのRingやソニーのSSAPなど、大型事業を生み出した成功事例も存在する。以下では、制度が形骸化する原因と、実効性ある制度を設計するための具体的な原則・手法を解説する。
制度の7割が「成果なし」で形骸化する現実
多くの日本企業が新規事業提案制度を導入しているが、その大半が形骸化している。経済産業省の調査によれば、新規事業提案制度を持つ大企業の 約7割が「成果が出ていない」 と回答している。応募数が年々減少する、毎年同じ顔ぶれが提案する、審査を通過しても事業化に至らない――こうした「制度疲れ」が蔓延している。
根本原因は、 制度設計の問題 である。提案者の本業との両立が困難、審査基準が不明確、事業化後の支援体制が不十分、失敗した場合のキャリアへの影響が不安――これらの 構造的課題を放置したまま「制度を作れば新規事業が生まれる」と考える企業があまりにも多い。
応募120件が3年で12件に激減した大手小売の事例
ある大手小売企業では、3年前に鳴り物入りで新規事業提案制度を開始した。初年度は 120件の応募 があり、5件が一次審査を通過した。しかし、通過した5人の提案者は全員が既存業務との兼務を強いられ、 週の稼働の20% しか新規事業に使えなかった。
半年後、5件中4件が「時間が取れない」という理由で辞退し、残った1件も1年後に頓挫した。2年目の応募数は 45件に激減 し、3年目は わずか12件。社内では「あの制度に手を挙げても何も変わらない」という空気が支配的になった。
一方、リクルートのRingは40年以上続き、ゼクシィやスタディサプリといった大型事業を輩出し続けている。この差は、制度設計の質の差にほかならない。
実効性ある制度に変える3つの設計原則
新規事業提案制度を実効性のあるものにするための具体的手法は以下の3つである。1) 提案者支援体制の確立:審査通過後は 最低50%以上の稼働 を新規事業に充てられる仕組みを作る。メンターの配置、予算の直接配分、専用ワークスペースの提供など、「提案した人が損をしない」環境が不可欠である。リクルートのRingでは、通過者に専任の事業開発支援チームがつく。
2) 段階的なステージゲート:一度の審査で全てを決めるのではなく、 3ヶ月ごとのマイルストーン を設定し、段階的に投資額を引き上げる。各段階での撤退基準も明確にすることで、提案者にも経営陣にも判断の透明性を確保する。
3) 失敗の評価制度:挑戦した事実をキャリア上のプラスと位置づける人事制度を整備する。失敗しても元の部署に戻れる 「リターンチケット」制度 は最低限必要である。
過去の提案者へのヒアリングから改善を始める
新規事業提案制度の立ち上げまたは改善に向けて、明日から取り組むべきアクションは以下の通りである。まず、過去の提案者10人にヒアリングを行い、「なぜ提案したか」「何が障壁だったか」「次回は提案するか」を率直に聞く。この声が制度改善の最重要インプットとなる。
次に、成功事例(リクルートのRing、ソニーのSSAP、パナソニックのGame Changer Catapult)の制度設計を比較分析し、自社に適用可能な要素を抽出する。
さらに、経営トップに「新規事業提案制度のスポンサー」として直接関与してもらうことを打診する。 トップのコミットメントなき制度 は、必ず形骸化する。制度は作って終わりではなく、毎年改善し続けるものである。
従業員500名以上の制度設計担当者に最適
新規事業提案制度の構築・改善が特に有効なのは、以下のような企業・担当者である。従業員500名以上の企業で、イノベーション推進部門や経営企画部門において制度設計を担当する立場にある人々。既に制度を持っているが応募数の減少や事業化率の低下に悩んでいる新規事業推進責任者。
また、制度はないが社内に眠る有望なアイデアを発掘したいと考える経営層にも直接的に参考になる。一方、従業員100名未満の企業では、制度よりも経営者との直接対話でアイデアを吸い上げる方が効果的な場合もある。
成功企業の制度を研究し改善案を策定しよう
新規事業提案制度はイントラプレナーを発掘・育成するための最も体系的な仕組みである。制度を通じて生まれた事業は社内ベンチャーとして独立させるケースもある。また、出島戦略と組み合わせることで、提案者が既存組織のしがらみから解放されて事業に集中できる環境を作れる。外部の知見を取り込むアクセラレータープログラムとの併用も効果的である。リクルートのRing、ソニーのSSAP、パナソニックのGame Changer Catapultの事例を研究し、今月中に自社の制度改善案を1つ策定してほしい。
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