概要
39works(サンキューワークス)は、NTTドコモが2014年から運営していた新規事業創出プログラムである(現在は「docomo STARTUP」へ統合・発展)。
通信キャリアであるドコモが、自前主義を捨て、 社外のパートナーとの「共創」 を前提としてスタートさせた点が画期的であった。企画段階からパートナー企業とチームを組み、高速でPDCAを回すスタイルは、大企業の新規事業開発における「オープンイノベーション」の先駆けとなった。
詳細
39worksは、NTTドコモ・ベンチャーズの社内プログラムとして始まり、後にドコモ本社R&Dイノベーション本部へと移管された。そのプロセスは「Lean Startup」の思想を色濃く反映している。
「ecbo cloak」との提携と苦難の乗り越え
荷物預かりサービス「ecbo cloak(エクボクローク)」は、39worksのプログラムを通じてドコモと提携した好例である。スタートアップのアイデアとアプリ開発力に、ドコモが持つ店舗網や顧客基盤(d払いなど)を掛け合わせることで、短期間での全国展開を実現した。
しかし、順風満帆ではなかった。2020年のコロナ禍により、観光需要は蒸発。売上が99%減少するという壊滅的な打撃を受けた。
「もはや事業継続は不可能ではないか」 社内でも売却論が出るほどの危機だったが、CEOの工藤慎一氏は「荷物を預けたいというニーズ自体は消えていない」と信じ、物流拠点としての活用など新たなピボットを模索。ドコモ側も単なる投資家として切り捨てるのではなく、共に苦境を乗り越えるパートナーとして伴走を続けた。この「雨の日の友情」こそが、オープンイノベーションの真価であったと言える。
「embot」のスピンアウト:大企業社員が社長になるまで
ダンボールでロボットを作るプログラミング教育キット「embot(エムボット)」は、ドコモ社員のアイデアから生まれた。 39worksでの検証を経て事業化された後、さらなる成長と自由な経営判断を実現するために、ドコモからカーブアウト(スピンアウト)し、別会社(株式会社e-Craft)として独立した。
通常、大企業の社員が事業をスピンアウトさせる際、「出向」扱いになることが多いが、embotの場合は 「転籍(退職して新会社へ移る)」 という選択肢も用意された(結果的にどう選択したかはケースによるが、制度として用意されていることが重要)。「本体に戻れる保証」を捨てることで、起業家としての覚悟が決まる。大企業にいながらにして「背水の陣」を敷ける環境が、39worksの強みであった。
組織文化の変革:「39works」から「docomo STARTUP」へ
2022年、39worksは「docomo STARTUP」へと統合された。これは単なる名称変更ではない。39worksで培われた「リーンスタートアップ」「外部共創」「カーブアウト」といった文化が、一部の先進的な部署のものから、 ドコモグループ全社員の新しい当たり前 へと昇華されたことを意味する。 かつて「石橋を叩いて渡る」と言われた慎重なドコモの文化に、「とりあえずやってみる(Just Do It)」の精神を植え付けた功績は計り知れない。
学べること
- 「自前主義」からの脱却: すべてを社内リソースで賄おうとするとスピードが落ちる。餅は餅屋に任せ、外部パートナーと対等な関係で「共創」することが、大企業の新規事業を加速させる。
- 「出島」の重要性: 本体とは異なる人事制度や評価基準を持つ「出島」組織を作ることで、既存事業の論理に潰されずに新しい芽を育てることができる。
- 出口の多様性: 「本体事業への統合」だけがゴールではない。M&Aやカーブアウトなど、事業の特性に合わせた最適な「出口」を用意しておくことが、起案者のモチベーション維持に繋がる。


