化粧品メーカーが「食」に挑む理由
「 BIDISH(ビディッシュ) 」は、化粧品大手ポーラが2023年に本格展開を開始した、美の食材にこだわった冷凍宅食惣菜ブランドである。「食を通じて美しさの可能性を広げ、人を豊かにする」をミッションに掲げ、化粧品の枠を超えた「美と健康」の新事業として立ち上げられた。
ポーラは2029年に創業100周年を迎える。「 We Care More. 」のビジョンのもと、人・社会・地球をケアする事業の拡張を進めており、BIDISHはその新規事業群の中核をなすプロジェクトである。「美しさは外側のケアだけでなく、体の内側の栄養から」という発想で、化粧品メーカーならではの「美の食材」へのこだわりを食品事業に持ち込んだ。
クラウドファンディングから始まった市場検証
BIDISHプロジェクトは2020年7月に始動した。商品開発にあたっては、 神戸女学院大学 との共同研究で栄養設計を行い、製造は冷凍食品の専門企業に委託するファブレスモデルを採用している。
本格的な設備投資に先立ち、2022年にクラウドファンディングを実施した。結果は予想を超える好評で、 わずか1か月で目標金額を達成 した。この段階で「忙しくても美と健康に気を遣いたい女性」という明確なターゲット層の需要が実証された。2023年7月に専用ECサイトでの本格販売へ移行し、惣菜10品・スープ9品の計19品を全品700円で展開している。
フジテレビとの異業種コラボレーション
2024年2月、ポーラはフジテレビジョンとの協業による新メニュー「 わたしのための、BIDISH。 」を発売した。フジテレビの現役社員5名がメニュー開発に参画し、それぞれが仕事や家庭で抱える課題を「食」を通じて解決するというコンセプトでメニューを考案した。
参画したのはアナウンサー、プロデューサー、ディレクターなど多様な職種の社員で、各人の実体験に基づくストーリーが商品と紐づけられた。化粧品メーカーとテレビ局という異業種の組み合わせがメディアの関心を集め、WWDJAPAN、食品産業新聞など専門メディアからも広く報道された。
成果と現状
BIDISHは化粧品以外の事業領域で成果を上げる新規事業として、ポーラの事業ポートフォリオ拡大に貢献している。D2C(Direct to Consumer)モデルによるECサイト直販に加え、セット販売(5品・7品・10品・14品セット)や定期購入プランも用意し、継続的な顧客接点の構築を進めている。
新規事業の立ち上げにはAlphaDrive(アルファドライブ)が支援しており、ローンチ後の事業課題の改善にも外部の新規事業支援パートナーとの連携が活用されている。100周年に向けた「美と健康の総合企業」への転換を象徴する事業として、さらなる拡大が見込まれる。
この事例から学べること
第一に、「企業理念」を起点にした論理的な事業領域の拡張である。 ポーラは唐突に食品事業に参入したのではない。「美と健康」という企業の根幹にある価値観から「体の内側からの美」へと論理的に展開した。新規事業が既存事業と無関係に見えても、理念レベルで接続されていれば社内外の納得感が得られる。
第二に、クラウドファンディングを「テストマーケティング」として活用する手法である。 大企業の新規事業は初期投資の意思決定に時間がかかる。クラウドファンディングは資金調達の手段であると同時に、 需要の有無を低リスクで検証するMVP(Minimum Viable Product) として極めて有効であることをBIDISHは証明した。
第三に、異業種協業による「物語性」の付加である。 冷凍宅食惣菜は競合が激しい市場である。フジテレビ社員との共同開発は、単なるコラボレーションではなく「働く女性のリアルな課題」というストーリーを商品に付与した。この物語性こそが、レッドオーシャンの中での差別化要因となっている。


