飲料自販機メーカーの「生存戦略」
「 ど冷えもん 」は、サンデン・リテールシステムが開発・販売する冷凍食品専用の自動販売機である。2021年の発売以来、累計1万台超を販売し、自販機業界に「冷凍自販機」という全く新しいカテゴリを創出した。
開発の背景には、飲料自販機市場の構造的な縮小がある。国内の飲料自販機はピーク時に約350万台に達したが、その後5年間で約250万台まで急減し、以降も横ばいが続いていた。コンビニエンスストアの台頭により、飲料を自販機で買う必然性が薄れたためである。自販機メーカーにとって、既存市場の延長線上に成長の余地はなかった。
コンビニの棚から見つけた「次の市場」
開発を主導したのは同社常務執行役員の 大木哲秀 である。大木は2017年頃、成長市場を探索する中でコンビニの冷凍食品コーナーの急拡大に着目した。冷凍食品はコンビニの取り扱い商品の中で唯一、毎年2桁の成長を続けるカテゴリであった。
「冷凍食品を自動販売機で売れば、飲料以外の新市場を開拓できるのではないか。」大木はこのアイデアを冷凍食品メーカーに持ち込んだが、当初は全く相手にされなかった。「自販機で冷凍食品が売れるわけがない」という既成概念が業界に根強く存在したのである。
それでもチームは開発を続けた。大手メーカー各社の冷凍食品パッケージを徹底調査し、多様なサイズの商品を収容できる庫内設計を確立した。製品は完成したが、発売のタイミングは見定められないままであった。
コロナ禍が生んだ「偶然の追い風」
2020年、新型コロナウイルスの感染拡大により、飲食店の対面営業が大幅に制限された。売上激減にあえぐ飲食店にとって、「 対面なしで自店の商品を24時間販売できるチャネル 」は切実な課題(バーニングニーズ)となった。
サンデン・リテールシステムは発売を前倒しし、2021年1月に「ど冷えもん」の販売を開始した。コロナ禍で苦境にあった外食産業がいち早く導入し、「自販機で餃子が買える」「ラーメン店の冷凍つけ麺が24時間購入できる」といった事例がSNSで爆発的に拡散した。テレビやネットメディアがこぞって取り上げ、広告費をほとんどかけずに全国的な認知を獲得した。
成果と現状
販売実績は驚異的である。通常の食品用自販機の年間販売台数は 約500台 であるのに対し、ど冷えもんは発売から約2年で 8,000台 、3年で 9,000台 を突破し、累計 1万台超 を記録した。設置場所は飲食店の店頭、パチンコ店、スーパー、道の駅、高速道路のサービスエリアなど多岐にわたる。
設置場所を検索できるスマートフォンアプリ「 ど冷えもんGO 」のダウンロード数も5万8,000件に達し、消費者とのデジタル接点も構築している。「ど冷えもん」というキャッチーなネーミングもブランド認知に大きく貢献した。
この事例から学べること
第一に、「既存市場の縮小」を嘆くのではなく「成長市場との交差点」に新カテゴリを創る発想である。 サンデン・リテールシステムは「飲料自販機の改良」ではなく、「冷凍食品×自販機」という未開拓の交差点に新カテゴリを創出した。イノベーションは既存市場の改善ではなく、異なる成長市場との組み合わせから生まれるという典型例である。
第二に、「最初は相手にされない」ことを恐れない粘りである。 冷凍食品メーカーに持ち込んでも門前払い。しかし開発チームは「いつか来る市場の変化」を信じて製品を完成させた。結果的にコロナ禍という外部環境の激変が追い風となったが、製品が準備できていなければその風を掴むことは不可能であった。
第三に、SNS時代の「口コミ駆動型マーケティング」の威力である。 「自販機で餃子が買える」という異質さがSNSでの自然拡散を生んだ。大企業の新規事業は巨額の広告予算を前提としがちだが、製品そのものの「語りたくなる体験」がマーケティングコストを劇的に圧縮できることを、ど冷えもんは実証した。