課題・背景:脳卒中後の重度まひ、従来リハビリの限界
脳卒中後に生じる重度の運動障害は、患者の生活の質を長期にわたり損なう。リハビリテーションは運動機能の回復に不可欠だが、重度まひの患者では「動かそうとする意図」を機械的に補助する仕組みがなく、従来のリハビリでは回復が限定的にとどまるケースが多かった。
BMI(ブレイン・マシン・インタフェース)技術は、この課題に対する根本的なアプローチとして注目されている。脳の神経活動を外部デバイスで読み取り、意図した運動を機械的に実現することで、神経回路の再構築を促すというメカニズムである。
取り組みの経緯:慶應発スタートアップが独自の医療機器を開発
LIFESCAPESは慶應義塾大学発のスタートアップとして設立された。同社のBMI医療機器は、患者が手指を動かそうとする際の脳活動をヘッドセットで検出し、その信号に応じて手指に装着した電動装具を作動させる仕組みを持つ。
特筆すべきは、単に補助するだけでなく「機器を外した状態でも患者が自力で動かせること」を目標に設計されている点だ。神経回路の可塑性(再構築能力)を活かした機能回復を志向しており、リハビリ機器の枠を超えた治療的アプローチとして評価されている。
今回の7.2億円調達には、慶應イノベーション・イニシアティブ・三菱UFJキャピタル・日本ベンチャーキャピタル・Beyond Next Ventures・フューチャーベンチャーキャピタル・日揮みらい投資事業有限責任組合・CYBERDYNE・SMBCベンチャーキャピタルの8社が参画した。
サービス・事業の仕組み:BMI×電動装具の統合アプローチ
LIFESCAPESの医療機器は以下の3層で構成される。
- 脳活動計測レイヤー: ヘッドセット型センサーで脳神経系の活動を実時間で計測
- シグナル処理レイヤー: 「動かそうとする意図」に対応する脳波パターンを識別
- 介入レイヤー: 手指装着型の電動装具が検出信号に従い動作し、運動フィードバックを生成
このサイクルを繰り返すことで、脳と身体の神経回路接続が徐々に再構築される。同社は現在、国内での医師主導治験を推進中であり、薬事承認に向けたロードマップを進めている。
住友生命CVCの参画が示す意味
今回の資金調達で注目されるのが、住友生命保険のCVC「SUMISEI INNOVATION FUND」の参画だ。同ファンドはウェルビーイング領域・顧客体験向上・新たな顧客接点創出・AI/DX推進を投資対象としており、LIFESCAPESへの出資は「脳卒中後の保険金支払いから運動機能回復・社会復帰までを一貫して支える新サービス」の可能性を研究する戦略的投資と位置づけられている。
保険会社が医療機器スタートアップに出資するこの形は、給付後のケアまでをカバーする保険サービスの再設計という大きなトレンドを反映している。