課題・背景:挑戦を促したい銀行が、まず社員に挑戦させる
銀行は、リスクを管理することで信頼を積み上げてきた業種だ。その銀行が「リスクを取って顧客の成長を支える」役割を求められている。りそな銀行の千田一弘社長は、この転換を自社の社員から始めようとしている。
千田氏は2026年4月1日付で、りそなホールディングス傘下のりそな銀行の社長に就いた。就任後の取材では、取引先の多くが中小企業であることを踏まえ、「リスクを取って支えていく」と語っている。過去の融資判断については、慎重な判断をすることがあったと振り返った。
取り組みの経緯:2026年10月に制度を開始
共同通信の2026年9月9日配信の記事によると、千田社長は社内ベンチャー制度を10月から始めると明らかにした。制度の骨格は次の3点だ。
- 対象: りそなグループの全社員
- 募集するもの: 新規事業案
- 採択後の扱い: 採択された提案をした社員が社長として事業をけん引する
狙いは、社員が挑戦する企業文化を育てることにある。千田社長は、日本経済のためにリスクを取って顧客の成長を支えられる銀行になる必要がある、と意義を述べた。
サービス・事業の仕組み:「提案者が社長になる」という設計
この制度の特徴は、事業案を出した本人が社長になる点だ。提案だけを集めて担当部署に渡す方式とは違い、言い出した人が責任者として事業を動かす。制度が出す問いは「何をやるか」だけではなく、「誰がやるか」まで含んでいる。
報道で確認できるのは、対象・募集内容・採択後の位置づけと、制度を始める時期までである。応募の締切、選考の方法、出資や人員の規模、事業を担う組織の形態は、報道の範囲では示されていない。
同じ発表に並ぶ、りそなの攻めの方針
同じ報道では、りそなが今後3年でスタートアップに900億円超を融資する方針を持つことにも触れている。スタートアップから選ばれる銀行を目指すという。顧客のスタートアップを支える側として、自社の内側にも事業を起こす人をつくる、という対になった構えだ。
背景:資本の制約を経て、挑戦へ向かう銀行
りそなホールディングスは、2003年に不良債権問題で公的資金が投入された。2015年に返済を終えた後も、資本の蓄積が十分でなく対応できない場面があり、悔しい思いを数多くしたと千田社長は述べている。守りを固めた時間が長かった組織が、攻めの文化づくりに踏み出した。
この事例から学べること
社内起業制度は、事業を生む仕組みであると同時に、文化を変える装置にもなる。 千田社長は制度の目的を、挑戦する企業文化の醸成に置いた。個別の事業が成功するかどうかとは別に、「提案した人が責任者になれる」という前例そのものが、社員の動き方を変える可能性がある。
金融機関が社内ベンチャーを持つ意味は、顧客への説得力にある。 スタートアップに融資する銀行が、自らも事業を起こす経験を持てば、起業家の悩みを自分の言葉で受け止めやすくなる。ただし、これは制度設計から読み取れる狙いであって、りそなが公表した効果ではない。
成果を判断するには、制度開始後の採択件数や事業の進み方を待つ必要がある。 現時点で報じられているのは方針と開始時期だけで、実績はまだない。イントレプレナーを支える制度の設計では、選考の基準や撤退の条件がどう決まるかが成否を分ける。新規事業提案制度と組み合わせて見ていきたい。