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事業事例

住友ベークライト SBinno ――素材メーカーが脳波計で「ブレインテック事業」に挑む新規事業創出

事業・会社概要
事業会社
住友ベークライト
業界
化学素材 / 医療機器
設立/開始
約10年前(SBinno開始)/ 2024年4月(BMI事業化プロジェクト発足)
開始年
2015年
サービスサイト
www.sumibe.co.jp
コーポレートサイト
www.sumibe.co.jp

History & Evolution

約2015年頃

SBinno(新商品開発プログラム)開始

開発者による自発的な企画を研修形式でサポートし、新事業の「種」を社内から生み出す独自プログラムとして発足。約10年間継続。

2024年4月

BMI事業化プロジェクトチーム発足

医療用レベルの脳波測定を簡便に行うデバイスの開発・事業化に向けたプロジェクトチームを公式発足。プレスリリースで社外公表。

2024年度

脳波測定用ハイドロゲル電極デバイスの開発成果

頭部形状・肌質の個人差に対応する樹脂製ドライ電極にハイドロゲルを採用し、医療用レベルの脳波を簡便に測定できるデバイスの開発に成功。

2025年度

AEM(アニオン交換膜)量産化プロジェクト始動

水素製造に貢献するアニオン交換膜の量産化新プロジェクトが同時並行でスタート。2030年度の量産化目標。

2026年1月

京セラ半導体封止材事業の300億円買収

本業強化として、京セラのケミカル事業(半導体封止用エポキシ樹脂成形材料等)を300億円で買収。コア事業の強化と新規事業創出を並行推進。

2027年度(目標)

在宅脳波計の国内販売開始

開発中の在宅用脳波測定デバイスの国内市場投入を2027年度に計画。

SBinnoとは何か

SBinno(エスビーノ)」は、住友ベークライト株式会社が約10年前から続ける独自の新商品開発プログラムだ。開発者が自ら新規事業アイデアを企画し、それを「研修形式でサポートする」という仕組みで、社内から新事業の種を継続的に生み出すための仕掛けとして運用されてきた。

住友ベークライトはエポキシ樹脂・フェノール樹脂などの化学素材を主力事業とする素材メーカーだ。長年「研究は金食い虫」という評価を社内に持ちながらも、副社長が意識改革を主導し、研究開発を「将来の事業の柱を生む投資」と位置付けた。その文化転換の産物がSBinnoである。


BMI事業化という大きな賭け

SBinnoから育った代表的な新規事業が、ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)事業化プロジェクトだ。

住友ベークライトは脳波測定用の樹脂製ドライ電極を開発してきた。従来の脳波電極は、頭皮に導電性ジェルを塗る手間や頭部形状・肌質の個人差への対応が課題だった。住友ベークライトはドライ電極の先端にハイドロゲルを用いることで、これらの課題を解消する医療用レベルの脳波測定デバイスを実現した。

2024年4月にBMI事業化プロジェクトチームを正式発足させ、2027年度の国内販売開始を目標に開発を進めている。長期的には「ブレインテック事業」として売上高1,000億円規模という目標を掲げており、素材メーカーとしては非常に大きな新事業目標となっている。


「強みの転用」という戦略の論理

素材メーカーが医療機器市場に参入するケースは、製品設計・薬機法対応・臨床エビデンス構築など、多くのハードルを越える必要があり、ゼロから参入すれば難易度が高い。

住友ベークライトが有利なのは、医療グレードの樹脂素材設計技術が、脳波電極そのものの性能に直結する点だ。これは「素材から製品へ」という垂直統合の試みではなく、「素材技術が最終デバイスの差別化要素になる領域を選ぶ」という選択の問題だ。

同様の論理は、同社が並行進行させているAEM(アニオン交換膜)量産化プロジェクトでも見られる。水素製造用の膜素材という、エネルギー転換の文脈で重要な素材において、化学素材の専門性を直接事業価値に転換しようとしている。


本業強化と新規事業の並行:2026年1月の買収

新規事業への投資と並行して、住友ベークライトは2026年1月に京セラのケミカル事業(半導体封止用エポキシ樹脂成形材料等)を300億円で買収した。半導体パッケージ材料は住友ベークライトの本業の中核であり、コア事業の強化と新規事業創出を並行推進している点が、同社の事業戦略の特徴だ。

新規事業だけに前のめりになるのではなく、本業の競争力を買収で強化しながら新領域への種も育てるという「二正面作戦」を実行している。


大企業新規事業開発の示唆

SBinnoとBMI事業化が示す教訓は3点に整理できる。

第一に、プログラムの長期継続が重要だという点だ。約10年間継続されたSBinnoから、BMI事業化という具体的成果が出るまでの時間軸は、新規事業プログラムを「3年で結果が出なければ廃止」する大企業の失敗パターンへの反証になっている。

第二に、本業の技術的強みを起点に新規事業を設計するという節度だ。「全く別の事業をやる」という方向ではなく、自社固有の素材技術が差別化に直結する領域を選んでいる。

第三に、トップの「意識改革」が文化の変容を作った点だ。副社長が「研究は金食い虫」という評価を変えたという事実は、制度設計だけでなく経営トップのナラティブ変容が必要だというメッセージを示している。


関連項目

成功の鍵

1

素材の強みを医療機器領域に「転用」する戦略

住友ベークライトはエポキシ樹脂・フェノール樹脂など医療グレードの特殊樹脂を長年製造してきた。脳波電極のハイドロゲル対応は、この樹脂設計技術が起点になっている。「素材メーカーが医療機器に参入する」のではなく、「材料技術が最終製品に直結する領域で付加価値を取る」という転用の論理がある。

2

「研究は金食い虫」から脱した副社長主導の意識改革

従来「コスト部門」として扱われていた研究開発部門を、新規事業の源泉として再定義するトップダウンの意識改革が、SBinnoの長期継続を支えた。副社長自身がこの転換を主導した点が、単なる制度創設でなく文化変革として機能した。

3

10年間の継続が「種」を育てた

SBinnoは約10年間継続されたプログラムだ。新規事業プログラムが「3年で成果が出ない→廃止」を繰り返す大企業の典型パターンとは対照的に、長期視点での継続投資が今回のBMI事業化という具体的成果につながった。

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