課題・背景:面談の「やり方」が10年変わっていない
内部通報への対応、ハラスメント相談、メンタルヘルスの相談、不正対応。企業にはいま、扱いを誤れば当事者にも会社にも大きな傷が残る高リスクな面談が増えている。ところが、その進め方は長く個々の担当者の経験に任されてきた。Sincecoreの代表取締役・佐藤英吾氏は、面談のあり方がこの10年変わっていないことを課題として挙げている。
そこに期限が迫っている。2026年12月1日には改正公益通報者保護法が施行される。Sincecoreは、この施行を控えて企業側の対応が急がれる状況を、事業の背景に置いている。
取り組みの経緯:プログラムから会社へ
Sincecoreは、大日本印刷(DNP)の新規事業創出プログラム「OneABスタジオ」から生まれた。このプログラムは、DNPが持つ「出向起業型カーブアウト」の仕組みを活用するもので、CINCAが設計・運営を担い、アイデアの着想から事業実装までを支援した。
時系列は次のとおり。
- 2026年5月1日: Sincecoreを設立。DNPから独立した経営体制のスタートアップとして出発した
- 2026年7月31日: カーブアウト元であるDNPが出資
- 2026年8月6日: プログラムを設計・運営したCINCAが、Sincecoreへの出資を発表(出資額は非公表)
- 2026年8月26日: 日本政策金融公庫の東京支店から、「新規開業・スタートアップ支援資金」による融資を受けたと発表(融資額は非公表)
あわせて、2026年秋のサービス提供開始に向けた準備を進めている。
サービス・事業の仕組み:AI-SaaSと専門家の組み合わせ
提供する「シンミライナビ」は、高リスクな面談を支える対話ガバナンス基盤だ。面談の準備、面談中の対話、面談後の記録までを支える。発表によれば、ビジネスの専門家、社会保険労務士、弁護士といった専門家の知見と、AI-SaaSを組み合わせる設計になっている。
資金と体制の面では、次の役割分担が読み取れる。
| 主体 | 役割 |
|---|---|
| DNP | カーブアウト元。プログラムの母体であり、設立後に出資 |
| CINCA | OneABスタジオの設計・運営、Sincecoreへの出資 |
| 日本政策金融公庫 | 創業期の融資 |
| Sincecore | 独立した経営体制で事業を運営 |
この事例から学べること
カーブアウトは「切り出す」だけでなく、「切り出す前の設計」で成否が分かれる。 本事例ではプログラムの設計と運営を外部の専門企業(CINCA)が担い、着想の段階から事業実装までを支援した。社内に起業の型がない企業が、型ごと外部から借りる選択肢を示している。
出資元の大企業が資本を持ちながら、経営は独立させている。 設立(5月)から出資(7月)までに約3か月を置き、先に独立した経営体制をつくった点は、起業家主導型のカーブアウトを設計する際の参考になる。
需要の根拠が法改正という外部の期限にある。 施行日が決まっているテーマは、顧客が動く時期を読みやすい。一方で、サービスはまだ提供開始前であり、導入企業数や売上などの実績は公開されていない。法改正という追い風が、そのまま受注につながるかは今後の観察が必要だ。