過疎地域の物流危機に挑む大手物流企業
「 SkyHub 」は、セイノーホールディングスとドローンベンチャーの エアロネクスト が共同で構築する、ドローン配送を含む新世代の物流システムである。過疎化が進む地域のラストワンマイル配送を、ドローンと陸上配送の「ベストミックス」で再構築するという構想であり、2021年の始動以来、全国10拠点超への社会実装を実現している。
日本の物流業界は「2024年問題」に代表される深刻なドライバー不足に直面している。特に過疎地域では、少量の荷物を広範囲に届ける非効率なラストワンマイル配送が採算割れの原因となり、物流インフラの維持そのものが危機に瀕していた。セイノーHD執行役員の 河合秀治 は、この課題に対してドローンとデジタル技術を活用した物流の構造改革を提唱した。
O.P.P. ― 業界の壁を超えるオープン戦略
SkyHubの根幹にある思想が「 オープン・パブリック・プラットフォーム(O.P.P.) 」構想である。これは、社内外・業種の違いを問わず連携した(オープン)、誰もが使える(パブリック)物流プラットフォームを構築するという壮大なビジョンである。
従来の物流業界は、各社が独自の配送網を構築し、荷物を囲い込む競争構造であった。しかし過疎地域の物流維持は、1社の収益だけでは成り立たない。O.P.P.構想は、ラストワンマイルの共同配送、陸送と空送のベストミックス、貨客混載、自動化技術などを業界横断で共有し、物流を「公共インフラ」として再設計することを目指す。セイノーHDは「 Team Green Logistics 」をスローガンに掲げ、この構想を全社戦略の柱に据えている。
小菅村での社会実装
SkyHubの最初の社会実装地は、山梨県北都留郡 小菅村 であった。人口約700人のこの山村で、2021年11月にドローン配送とオンデマンド型の陸上配送を組み合わせたサービスが開始された。
運用は合弁会社「 NEXT DELIVERY 」が担い、村内の買い物代行や医薬品配送をドローンで行う。2024年4月時点で、ドローン配送が 550件超 、地域のスーパーと連携した買い物代行サービスが 1,200件超 と、住民の日常のインフラとして定着している。2023年には日本初となる「 レベル3.5飛行 」によるドローン配送の事業化も実現した。
成果と現状
小菅村で構築した運用モデル(「小菅モデル」)は、全国の自治体へ水平展開が進んでいる。北海道上士幌町、福井県敦賀市、茨城県境町、千葉県勝浦市、和歌山県日高川町、石川県小松市、徳島県佐那河内村など、社会実装フェーズに入った自治体は 全国8拠点以上 に拡大した。
SkyHubの取り組みは「 デジタル田園都市国家構想 」の優良事例にも選定されており、国の過疎地域対策の先進モデルとしても評価されている。2024年4月には小菅村との包括連携協定を約3年半ぶりに更新し、セイノーHDも正式に協定メンバーに加わることで、官民連携の枠組みをさらに強化した。
この事例から学べること
第一に、「オープン戦略」による社会インフラ型プラットフォームの構築である。 SkyHubは自社の競争優位を囲い込むのではなく、誰もが使えるプラットフォームとして設計されている。過疎地域の物流は1社では維持できない。だからこそ「オープン&パブリック」な設計で多くのプレイヤーを巻き込み、エコシステムとして持続可能性を確保する。競争と協創の使い分けが秀逸である。
第二に、「小さく始めて、型をつくり、横展開する」というスケール戦略である。 人口700人の小菅村という極小の市場で運用モデルを確立し、それを「型」として全国の類似地域に水平展開した。大企業の新規事業は「最初から大きな市場を狙う」傾向があるが、SkyHubは逆に「最小の市場で完璧なモデルを作る」ことを優先した。
第三に、大企業とスタートアップの「対等な共創」モデルである。 売上高6,000億円超のセイノーHDと、ドローンベンチャーのエアロネクスト。規模の異なる企業が合弁会社(NEXT DELIVERY)を設立し、対等なパートナーシップで事業を推進した。大企業の配送網とスタートアップの技術、それぞれの強みを掛け合わせたオープンイノベーションの成功モデルである。


