課題・背景:「人が住む街」での実証という新次元
Woven Cityは、トヨタが静岡県裾野市の旧東富士工場跡地(約70.8万㎡)に建設した実験都市であり、2025年9月のPhase1オフィシャルローンチ以降、実際の居住者と研究者が生活する「生きた実験場」として稼働している。
従来の企業実証実験は、閉鎖されたテストコースや工場内の限定環境で行われることが多かった。Woven Cityが異なるのは、そこに人が実際に生活し、日常行動のデータが継続的に蓄積される点にある。この環境は、ヘルスケアから物流・行政DXに至る多様な領域のスタートアップにとって、代替不可能な実証フィールドとなる。
2026年初頭に開始された「Woven City Challenge」は、このフィールドを外部スタートアップに開放する初めての公開公募プログラムである。テーマ「Hack the Mobility」は、移動という概念を広義に解釈し、医療・情報・エネルギー・社会インフラの移動を含む包括的なスコープを設定している。
取り組みの経緯:19社インベンターから外部公募へ
Woven Cityは当初、「インベンター」と呼ばれる招待制の参画企業群で構成されていた。2025年8月時点でダイキン工業・日清食品・UCCジャパン等を含む19社が確定しており、これら企業は優先的に施設への実験機会を得ている。
しかし、インベンター方式は招待制ゆえにイノベーションの多様性を制約するという課題も内在していた。街の実証テーマが多領域化するにつれ、インベンター19社では対応しきれない専門領域が生じてきた。こうした背景から、スタートアップ向けの公開公募「Woven City Challenge」が設計された。
2026年の初回公募「Hack the Mobility」では、医療AI・物流・ドローン・VR・行政DX・ワイヤレス給電・エネルギー・資源循環・ロボット・節水洗濯の10領域にわたるファイナリストが選出された。各社の具体的な技術領域は次のとおりである。
- アイリス — AI医療診断支援
- サマリー — 情報整理・コンテンツ管理
- Aerial Base — ドローンインフラ
- ティフォン — 物流自動化
- パブリックテクノロジーズ — 行政DXプラットフォーム
- パワーウェーブ — ワイヤレス給電
- ユーリア — エネルギー管理
- JOYCLE — 資源循環
- Refined Robotics — サービスロボット
- wash-plus — 節水洗濯システム
サービス・事業の仕組み:採択インセンティブの構造
Woven City Challengeの採択企業には3つの価値が提供される。第一に、Woven City内の施設を実証実験に使用する権利である。居住者・研究者が生活する環境での実データ取得は、通常の実験設備では再現できない。
第二に、Woven by Toyotaの技術・リソースを活用した製品開発支援である。自動運転・AIソフトウェア・スマートホームに関する知見を持つトヨタグループのエンジニアリングチームが協力する。
第三に、100万円の資金提供である。スタートアップの実証実験コストの一部を補助するスキームであり、小規模POCの経済的ハードルを下げる機能を担う。
採択は複数社になる見込みであるが、具体的な採択数は公表されていない。4月下旬に実施された非公開最終選考を経て、最終採択先が決定する。
この事例から学べること
大企業の実証フィールド開放は、新規事業エコシステムの質を決定づける最重要資産である。 Woven Cityの事例が示すのは、資金よりもフィールドとデータへのアクセスが、スタートアップにとって根本的な価値を持つという原則だ。
採択インセンティブとして100万円という金額は小さいが、「人が実際に生活する街での実証」というフィールドの希少性が、競争力あるプログラムを成立させている。大企業が保有する固有リソース(インフラ・顧客・規制対応ノウハウ)をスタートアップに開放する設計こそが、共創プログラムの本質的な差別化要因となる。
また、10社のファイナリストが医療AIから節水洗濯までまったく異なる領域から選出されていることは、「Hack the Mobility」というテーマの広義の解釈を示している。移動・生活・社会インフラを横断的に捉える思考が、スマートシティ型の共創公募では求められる。
関連項目
参考文献・出典
- Bloomberg「トヨタWoven City、協業スタートアップ候補10社を公表」(2026年4月6日)
- Yahoo!ニュース転載:Bloomberg記事(2026年4月6日)
- Woven by Toyota公式サイト:https://www.woven-city.global/
- トヨタ自動車 ニュースルーム:https://global.toyota/jp/newsroom/corporate/43160579.html