課題・背景:製造・物流の「工程間搬送」は人手依存の最後の砦
製造業・物流倉庫において、工程間の搬送は依然として人手に依存している領域が多い。とりわけ長尺物・重量物を複数方向に動かす搬送工程は、既存のコンベアや一方向型AGVでは対応が困難だ。変種変量生産への対応、慢性的な人手不足、DX推進の3つの圧力が重なり、柔軟な搬送ソリューションへの需要が高まっていた。
一般的なAMR(自律移動ロボット)は車輪が進行方向に対して固定されているため、360度の全方向移動には制約が生じる。工場の狭い通路や複雑なラインレイアウトに対応するには、全方向に高精度で動ける機構が不可欠だった。
取り組みの経緯:九州工業大学の研究成果を事業化
TriOrbのコア技術は、九州工業大学が開発した球駆動式全方向移動機構に由来する。3つの球体と3基のモーターを組み合わせた独自構造が、mm単位の高精度移動制御とすべての方向への滑らかな移動を両立する。産業技術総合研究所(AIST)での事業化研究を経て、2023年2月にJST大学発新産業創出プログラム(START)の支援を受けてスピンアウト創業した。
2026年6月1日、TriOrbは第三者割当増資と金融機関からの借り入れを組み合わせた総額28億8,000万円のシリーズB資金調達を完了した。累計調達額は42.3億円となり、量産体制の構築と米国市場への本格展開に充てる方針だ。
サービス・事業の仕組み:「TriOrb BASE」の設計思想
主力製品「TriOrb BASE」は、コンパクトな50cm四方のサイズに300kgの積載能力を持ち、段差・スロープへの対応と高い地上高を確保した自律走行搬送プラットフォームだ。単体での自律走行に加え、複数台での協調搬送に対応する点が競合製品との最大の差別化要因である。長尺物の両端を2台で挟み込んで搬送するといった用途が、既存ロボットでは実現できなかった需要を開拓する。
収益モデルはハードウェア販売と保守サービスの組み合わせを基本とし、2026年1月に開設したデトロイト拠点を軸に北米製造業向けの事業展開を進める。
この事例から学べること
- 大学研究成果のカーブアウト事例として機能している ─ 九工大の研究 → AIST事業化研究 → JST START支援 → 独立法人というルートが実証された
- 単一技術の深掘り(全方向移動)が複数の市場課題(製造搬送・物流・重量物)にクロスする構造は、ディープテックスタートアップの事業設計の典型例
- シリーズBで28.8億円を調達できた背景には、国内実績に加えて米国拠点設立という具体的な成長ロードマップの提示があった
関連項目
参考文献・出典
- TriOrb、シリーズBで28.8億円調達 — 事業構想オンライン、2026年6月
- TriOrb 公式サイト
- 九州工業大学発ロボットスタートアップ、初回調達4,000万円 — PR TIMES、2023年4月