味の素
Ajinomoto Co., Inc.
アミノサイエンスの可能性を追求するグローバル企業。「ASV」を経営の核に据え、A-STARTERSで社員の志を事業化する、食と健康の課題解決型イノベーター。
企業概要
- 企業名
- 味の素
- 業種
- 食品 / アミノサイエンス / 電子材料 / ヘルスケア
- 所在地
- 東京都中央区
- 創業
- 1909年
- 公式サイト
- www.ajinomoto.co.jp
新規事業の歴史
History & Evolution
池田菊苗博士による「うま味」の発見
昆布のうま味成分がグルタミン酸であることを解明。産学連携の原点。
創業(「味の素」発売)
世界初のうま味調味料を発売。食生活の改善という志(パーパス)からスタート。
アミノ酸技術の外販・応用を開始
食品だけでなく、医薬、飼料、そして電子材料への応用研究を加速。
ABF(味の素ビルドアップフィルム)誕生
半導体絶縁材料で独占的シェアを獲得。食品メーカーの枠を超えた利益の柱へ。
ASV(Ajinomoto Group Creating Shared Value)導入
社会価値と経済価値の共創を経営の羅針盤に据える。
A-STARTERS 始動
社員の「志(Will)」を事業化する社内起業プログラム。LaboMe等の新事業が誕生。
事業事例
LaboMe ― 味の素・入社4年目の営業職が立ち上げた女性向けセルフケアサブスク
味の素の社内起業家公募プログラム「A-STARTERS」事業化第1号。自身のPMS(月経前症候群)の悩みを起点に、女性のセルフケアを支えるサブスクリプション型プロダクト&コミュニティサービスを立ち上げた事例。
味の素ビルドアップフィルム(ABF)― 調味料から半導体の心臓部へ、伝説の事業ピボット
調味料「味の素」のアミノ酸技術を応用し、パソコンのCPU絶縁材で世界シェア100%を誇るまでになった、味の素史上最大の「越境」イノベーション。
【歴史】「産学連携」と「不の解消」から始まった100年
味の素の歴史は、1908年、東京帝国大学の池田菊苗博士が「うま味」を発見したことから始まる。当時の日本の貧しい食生活を、安くて美味しい調味料で改善したいという 「志(パーパス)」 が、現在の同社のアイデンティティを形作っている。
「うま味の発見は、単なる化学の成果ではない。『日本人の栄養を改善したい』という池田博士の執念が、世界の食文化を変えた」
1. 創成期:「うま味」という新市場の発明
それまで概念として存在しなかった「うま味」を抽出し、製品化して世界に広める。この「ゼロからマーケットを創る」DNAは、現在の味の素にも脈々と受け継がれている。
2. 変革期:アミノ酸の「越境」とABFの伝説
食品メーカーが陥りがちな「自社ブランドの維持」に留まらず、アミノ酸の機能を徹底的に分解。その結果生まれたのが、パソコンやスマートフォンの心臓部を支えるABF(味の素ビルドアップフィルム)である。半導体の絶縁材料としてほぼ100%のシェアを誇り、食品メーカーがテクノロジー産業の黒子となった。これは、現代の日本企業における「両利きの経営」の成功モデルとして教科書に載るべき達成である。
3. 再定義期:ASVによる「社会課題解決型」への転換
2010年代、単なるグローバル展開から、「栄養改善」「プラスチック削減」といった社会課題を事業の駆動力とするASV経営へ移行。これにより、社員一人ひとりが「自分の仕事が世界を良くしている」という当事者意識(Will)を強く持つようになった。
【戦略】現代のABFを産み出すための「A-STARTERS」
味の素は、トップダウンだけでなく、ボトムアップの新規事業創出にも心血を注いでいる。
A-STARTERS:情熱を事業に変える装置
2020年に始まった A-STARTERS は、リクルートのRingにインスパイアされつつ、味の素独自の「アミノサイエンス」を融合させたプログラムである。全従業員を対象に、新規事業立ち上げを望む社員を公募・選抜し、ビジネスプランの事業化を推進する。
「審査員に納得させるための計画書はいらない。君が、その社会課題を放っておけないという『執着』を見せてくれ」
【事例深掘り】A-STARTERSが生んだ挑戦
LaboMe:味の素史上初の社内起業事業化第1号
LaboMe(ラボミー)は、A-STARTERSから生まれた事業化第1号案件である。当時入社4年目の営業職だった橋麻依子が2020年に起案し、2023年8月にサービスを開始した。
心と体のゆらぎに悩む女性に寄り添い、味の素の研究員が厳選したセルフケアプロダクトを毎月届けるサブスクリプション型サービスと、研究員やプロダクト開発者、会員同士でセルフケアを学び合うコミュニティの2軸で構成されている。
「新規事業では2つの大きな谷がある。最初の谷は『社内の理解を得ること』、2つ目の谷は『顧客に届けた後に本当に使い続けてもらえるか』。食品会社が化粧品やウェルネスを手掛ける意味を、自分自身が一番問い続けた」
ABF:食品メーカーが世界の半導体を支配する逆転劇
ABFの物語は、味の素の「越境する技術」の象徴である。アミノ酸の製造過程で培った化学合成技術を半導体の絶縁材料に応用し、Intel、AMD、NVIDIAなど世界の主要半導体メーカーが採用する事実上の業界標準となった。AI半導体の需要急拡大に伴い、ABFの戦略的重要性はさらに増している。
健康経営を「新規事業の土壌」とする
味の素は「健康経営銘柄」の常連である。しかし、それは単なる福利厚生ではない。定期健診後の「全員面談」などの徹底したサポートが、社員のWill(意志)を濁らせないためのフィルターとして機能している。心身ともに健全な状態で「自分ごと」の課題に向き合えることが、A-STARTERSのような挑戦を生む土壌となっている。
【キーパーソン】技術を価値に変えた人々
- 池田菊苗:「うま味」の発見者。技術を「論文」で終わらせず、「社会実装」した最初のイントラプレナー。
- 藤田進:味の素のイノベーション戦略を牽引し、A-STARTERSの基盤を築いた。
- 橋麻依子:A-STARTERS事業化第1号「LaboMe」の起案者。入社4年目の営業職から社内起業家へ転身し、食品メーカーの「非伝統的領域」を切り拓いた。
【成功と失敗】味の素が直面する構造的課題
成功の構造: ABFは「食品メーカーのコア技術を全く異なる産業に転用する」という、日本企業では稀有な越境イノベーションの成功例である。アミノ酸の化学合成技術という「深い井戸」を掘り続けた結果、全く異なる市場(半導体)に突き当たったという点は、技術の深掘りが予想外の市場を拓くことの証明だ。
課題: A-STARTERSはまだ歴史が浅く、LaboMe以降の事業化実績の積み上げが今後の課題となる。食品メーカーという強いブランドイメージが、ヘルスケアやウェルネス領域での信頼性に繋がる一方で、消費者の「味の素=調味料」という認知の壁を突破する必要がある。
展望:2030年、食品とサイエンスの融合点へ
味の素が目指すのは、「Well-beingの提供」である。ABFでデジタルインフラを支え、アミノ酸で人々の健康寿命を延ばす。
- 未病の可視化:血液中のアミノ酸バランスから将来の疾病リスクを予測する「アミノインデックス」の展開。
- 代替タンパク質の進化:アミノ酸技術を活かし、肉や魚に代わる、より美味しく、より環境負荷の低い食品の開発。
- 再生医療への貢献:細胞培養に必要な「培地」の分野で世界トップクラスのシェアを誇り、最先端医療の黒子として社会を支える。
食品メーカーという定義を過去のものとし、彼らは「生命の仕組みに挑む科学者集団」として、次の100年へ踏み出している。
関連項目
成功の鍵
ASV(志を起点にした経営)
「社会の不を解決することが、結果として利益を生む」というリクルート流に近い経営OS。
アミノサイエンス(技術の深掘り)
アミノ酸の機能を食品、医療、電子材料へ「越境」させる独創的な研究開発体制。
A-STARTERS(起案者への全権委任)
若手からベテランまで、「これをやりたい」という熱意を否定せず、事業化まで伴走。
全員面談(健康経営の徹底)
社員の元気がなければ新規事業は生まれない。産業保健スタッフによる全員面談を実施。
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