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事業会社

東レ

東レ ロゴ

Toray Industries, Inc.

「ナノテクノロジー」をコア技術とする日本を代表する総合化学メーカー。BtoBの素材提供にとどまらず、「出向起業」スキームを活用した「MOONRAKERS」などのD2C新事業創出にも果敢に挑戦している。

企業概要
企業名
東レ
業種
化学・素材メーカー
所在地
東京都中央区日本橋室町
創業
1926年
公式サイト
www.toray.co.jp

新規事業の歴史

History & Evolution

1926

東洋レーヨン設立

三井物産の出資を受け、レーヨン製造を主力とする繊維メーカーとして創業。

1971

炭素繊維TORAYCA量産開始

市場がほぼ存在しない段階から「夢の素材」炭素繊維の量産に踏み切った。

2003

ボーイング787にTORAYCA採用決定

機体重量の約50%に炭素繊維複合材料が使われる長期供給契約を締結。

2011

炭素繊維世界シェアNo.1

30年以上の基礎研究投資が実を結び、炭素繊維で世界トップシェアを確立。

2023

MOONRAKERS出向起業

経産省の出向起業スキームを活用し、D2Cアパレルブランドを社外で事業化。

2025

グリーンイノベーション推進

脱炭素・循環型社会に向け、水素タンク用炭素繊維やEV軽量化素材の開発を加速。

【歴史】繊維メーカーから「先端材料の巨人」へ:100年の変革史

東レは1926年、三井物産の出資を受けて「東洋レーヨン」として創業した。当初はレーヨン(人造絹糸)の製造を主力とする繊維メーカーだったが、その後の100年で、繊維・化学・IT・環境・ライフサイエンスなど多角的な先端材料メーカーへと変貌を遂げた。

「素材には、社会を変える力がある。」

――東レ コーポレートメッセージ

この言葉は、東レが単なる素材の「サプライヤー」ではなく、素材を起点に社会そのものを変革するという強い意志の表明である。

1. 創成期:レーヨンから合成繊維へ

戦後、東レはナイロンの国産化に成功し、日本の繊維産業の近代化を牽引した。1950年代にはナイロン繊維「東レナイロン」が爆発的にヒットし、国民の衣生活を一変させた。この成功体験が、東レに**「素材の力で生活を変える」**というDNAを刻み込んだ。

2. 転換期:炭素繊維への賭け

1971年、東レは後に世界を変えることになる**炭素繊維「TORAYCA」**の量産を開始した。当時、炭素繊維は市場がほぼ存在しない「夢の素材」であり、事業化には長い忍耐が求められた。赤字が続く中でも基礎研究への投資を止めなかった経営判断が、現在の東レの競争優位の源泉となっている。

3. 収穫期:ボーイング787と「素材革命」

2000年代、東レの炭素繊維は航空機の構造材として採用が加速する。2006年にはボーイング社と787ドリームライナー向けの長期供給契約を締結。機体重量の約50%に炭素繊維複合材料が使われるという、航空機史上初の快挙を成し遂げた。

この契約は、東レが30年以上にわたって蓄積してきた素材技術と品質管理が、世界最高水準の信頼を勝ち取った瞬間であった。

【素材イノベーション】炭素繊維「TORAYCA」:世界シェアNo.1の裏側

東レの炭素繊維TORAYCAは、鉄の10倍の強度と4分の1の軽さを併せ持つ先端素材である。航空機、自動車、風力発電ブレード、スポーツ用品など、あらゆる分野で「軽くて強い」構造を実現し、世界シェアNo.1の地位を確立している。

この成功の鍵は、東レが「素材を売る」のではなく、**「素材で解決策を提供する」**というアプローチを徹底している点にある。顧客の設計段階から深く入り込み、素材の特性を最大限に引き出す設計提案を行う。この「ソリューション型ビジネスモデル」が、単なるコモディティ競争を回避し、高い収益性を維持する源泉となっている。

「炭素繊維は、50年かけて育てた事業。最初の30年は赤字だった。それでも投資を続けたのは、この素材が必ず社会を変えると信じていたからだ」

――東レ 炭素繊維複合材料事業の歩み

【新規事業創出】MOONRAKERS TECHNOLOGIES:出向起業が拓いたD2Cの新境地

東レの新規事業創出において最も注目すべきは、**MOONRAKERS TECHNOLOGIESの誕生である。2023年に設立されたこの会社は、経済産業省の「出向起業」**スキームを活用し、東レの社員が東レに在籍したまま起業するスピンアウト型の新事業創出を実現した。

BtoBメーカーがD2Cに挑む意味

東レは伝統的にBtoB企業であり、最終消費者との接点を持たなかった。MOONRAKERSは、東レが持つ世界最先端の機能素材を、中間業者を介さずに直接消費者に届けるD2Cアパレルブランドとして展開している。超軽量・高機能な日常着は、「素材メーカーが自ら最終製品を作る」という新たなビジネスモデルの実証でもある。

出向起業という選択肢

MOONRAKERSの事例が示す最大の教訓は、大企業の社員が会社を辞めずに起業できるというコーポレートベンチャーの新しいかたちである。東レのブランド力と素材技術を活用しながら、スタートアップのスピードと自由度で市場を開拓する。このモデルは、日本新規事業大賞を受賞するなど、大企業発の新規事業の成功モデルとして高く評価されている。

【研究開発】基礎研究から事業化へのブリッジ

東レの強みは、基礎研究への長期投資と、それを事業化につなげる仕組みの両立にある。売上高の約3%を研究開発費に充て、国内外に複数の研究拠点を持つ。

技術センターの役割

東レの技術センターは、各事業部門の「縦」の開発に対して、「横」のブリッジ機能を果たしている。繊維で培った技術が水処理膜に応用され、フィルム技術がリチウムイオン電池のセパレータに転用されるなど、技術の「越境」を組織的に推進している。

オープンイノベーションへの取り組み

東レは自前主義に固執せず、大学やスタートアップとの共同研究を積極的に推進している。特に、ナノテクノロジーやバイオテクノロジーの領域では、外部の知見を取り込みながら次世代素材の開発を加速させている。この姿勢は、MOONRAKERSのような「外に出て勝負する」新規事業創出の文化とも通底している。

「極限追求」の研究文化

東レの研究開発を特徴づけるのは、**「極限追求」**と呼ばれる研究文化である。炭素繊維の強度をミクロン単位で高め、水処理膜の孔径をナノメートル単位で制御する。この「もう少しだけ先へ」という執念が、他社には模倣困難な技術的優位性を生み出している。基礎研究に10年、20年の時間軸を許容する経営姿勢は、短期的な成果を求める現代の企業経営の中で際立った特徴である。

【哲学】「素材には、社会を変える力がある」

東レの企業哲学は、素材という「黒子」が持つ社会変革の力への深い確信に根ざしている。最終製品として消費者の目に触れることは少なくとも、炭素繊維が航空機を軽くし、水処理膜がきれいな水を届け、医療用フィルターが命を救う。その一つひとつが、東レの「素材で社会を変える」という思想の実践である。

この哲学は、新規事業の文脈でも重要な示唆を与えている。大企業の新規事業は、派手なプロダクトやアプリに目が向きがちだが、東レは**「自社のコア技術が本当に社会に貢献できる領域はどこか」**という問いから出発する。MOONRAKERSも、単なるアパレルブランドではなく、「素材の力で日常着の概念を変える」という東レのDNAを体現した挑戦なのである。

「我々は目立たない。でも、飛行機が空を飛ぶのも、きれいな水が飲めるのも、素材の力。その誇りが、東レの挑戦を支えている」

――東レ 技術者インタビューより

展望:素材の力で「グリーン」と「デジタル」の未来を拓く

東レは中長期ビジョンにおいて、グリーンイノベーション(脱炭素・循環型社会)とデジタルイノベーション(半導体・情報通信材料)を成長の2本柱に据えている。水素社会の実現に不可欠な炭素繊維製タンク、EVの軽量化に貢献する複合材料、半導体製造に使われる高機能フィルムなど、東レの素材技術は社会のメガトレンドと深く結びついている。

MOONRAKERSで示した「出向起業」による新規事業創出の成功体験は、今後の東レの事業ポートフォリオ拡大においても重要なモデルケースとなるだろう。BtoBの素材メーカーが、最終消費者に向き合うD2C事業を通じて得た知見は、素材開発そのものにフィードバックされ、「素材で社会を変える」という100年来の哲学を新たな次元へと押し上げている。

関連項目

成功の鍵

1

極限追求の研究文化

10〜20年の時間軸で基礎研究に投資し、他社が模倣困難な素材技術を生み出す。

2

素材ソリューション(BtoB→課題解決型)

素材を売るのではなく、顧客の設計段階から入り込み課題解決策を提供する。

3

出向起業モデル(MOONRAKERS)

会社に在籍したまま起業できるスキームで、BtoBメーカー発のD2C事業を実現。

4

オープンイノベーション(産学連携)

大学やスタートアップとの共同研究を通じ、ナノテク・バイオ領域の次世代素材を開発。

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