デザイン思考
デザイン思考(Design Thinking) とは、ユーザーへの深い共感を起点に、潜在的な課題を発見し、創造的な解決策を導くイノベーション手法である。スタンフォード大学d.schoolが体系化した「共感→問題定義→創造→プロトタイプ→テスト」の5ステップで構成され、人間中心設計の考え方に基づいている。
技術シーズ起点や市場調査起点のアプローチでは見えない、顧客の潜在的なニーズを発見できる点が最大の強みである。以下では、デザイン思考の実践ステップ、リーンスタートアップとの組み合わせ、大企業での導入事例について解説する。
技術起点と調査起点の限界を超えられない
日本の大企業の新規事業開発は、長らく「技術シーズ起点」で行われてきた。自社が持つ技術や特許を活かした事業アイデアを考え、後から市場を探すアプローチである。しかし、いくら高度な技術であっても、顧客が抱える課題と結びつかなければ事業にはならない。
「技術的には素晴らしいが、誰が買うのかわからない」という状態に陥る新規事業は少なくない。また、市場調査やアンケートに基づくアプローチでは、顧客の顕在的なニーズは把握できても、 本人すら気づいていない潜在的な課題 は見えてこない。この「 技術起点の限界」と「 調査起点の限界」が、大企業のイノベーション活動を停滞させている。
世界最高水準の技術なのに売上目標の10%
多くの新規事業チームが、「良い技術なのに売れない」という経験をしてきた。ある大手電機メーカーは、世界最高水準のセンサー技術を活かしたヘルスケアデバイスを開発した。技術展示会では高い評価を受けたが、一般消費者向けに販売すると、初年度の売上は目標の10%にも届かなかった。
原因を調査すると、消費者はセンサーの精度よりも「 日常生活の中で手間なく健康管理ができること」を求めていた。 技術スペックと顧客のペインが完全にずれていた のである。こうした「技術の落とし穴」は、技術力に自信のある大企業ほど陥りやすい構造的な問題である。
共感から始める課題発見と解決の3ステップ
デザイン思考は、この問題を3つのステップで解決する。第一に、「 共感(Empathize)」のフェーズで、顧客の生活や業務を深く観察し、本人も言語化できていない潜在的なニーズを発見する。アンケートではなく、 エスノグラフィー調査やシャドウイング などの手法を用いる。
第二に、「問題定義(Define)」と「創造(Ideate)」で、発見した真の課題に対する解決策を多角的に発想する。ジョブ理論を組み合わせることで、顧客が本当に「片づけたい用事」を明確にできる。
第三に、「プロトタイプ(Prototype)」と「テスト(Test)」で、素早く形にして顧客の反応を検証する。
まず「顧客に会いに行く」ことから始める
デザイン思考を実践するために、まずチーム全員で「顧客に会いに行く」ことから始めよう。 週に1回、ターゲット顧客の職場や生活の場に足を運び、実際の行動を観察する。インタビューではなく 「観察」が重要 であり、顧客が言葉にしない行動や習慣の中に、潜在的なニーズが隠れている。
次に、観察から得た気づきをチームで共有し、「この顧客が本当に困っていることは何か」を再定義する。MVPを開発する前に、紙のプロトタイプやモックアップで顧客の反応を確認するプロセスを必ず挟む。パナソニックのGame Changer Catapultのように、デザイン思考をプロセスに組み込んだ事例を参考にするとよい。
顧客視点が不足しているチームにこそ有効
デザイン思考が特に効果を発揮するのは、次のような場面・人物である。技術シーズはあるが、適用先の市場が見えていない研究開発部門。新規事業のアイデアが「自社都合」に偏りがちで、顧客視点が不足しているチーム。BtoCの新規事業で、消費者の潜在ニーズを発見したい段階にいるチーム。
また、エンジニアやR&D出身の新規事業担当者にとって、デザイン思考は「技術者の思考」から「顧客の思考」へ視点を切り替えるための強力なフレームワークとなる。イノベーション人材の育成プログラムにおいても中核的な手法として活用されている。
2週間で5ステップを1回転させてみる
デザイン思考の導入に向けて、具体的なアクションを起こそう。まず、チームメンバー全員でスタンフォード大学d.schoolの「デザイン思考ブートキャンプ」の資料を読み、5つのステップの全体像を理解する。
次に、最も身近な顧客課題を1つ選び、 2週間で5ステップのサイクルを1回転 させてみる。完璧な結果を求める必要はなく、 「顧客起点で考える」という体験自体がチームの思考を変革 する。
リーンスタートアップと組み合わせることで、デザイン思考で発見した顧客課題を事業仮説に転換し、体系的に検証を進めることが可能になる。
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