HMW(How Might We)
HMW(How Might We) とは、課題を「どうすれば〜できるだろうか?(How Might We…?)」と問い直すことで、解決策の発想を広げるフレーミング手法である。デザイン思考のプロセスにおいて、課題定義からアイデア発想への橋渡し役を担う。
「How」は解決可能性を示し、「Might」は複数の可能性を許容し、「We」はチーム全体の課題であることを表す。この 3語の組み合わせが、批判を排除し創造性を引き出す 問いの構造を生み出している。以下では、HMWの具体的な活用法と、大企業の新規事業における実践方法を解説する。
「課題はわかったが、何から手をつければいいかわからない」
カスタマーディスカバリーを通じて顧客のペインを特定できたとしても、そこから具体的な解決策に結びつけるのは容易ではない。チームで議論すると、 すぐに「あれはできない」「予算が足りない」という制約論 に陥り、発想が縮小していく。
この問題の根本原因は、課題をそのまま「解決すべき問題」として捉えてしまうことにある。HMWは課題を「問い」の形に変換することで、 制約を一時的に脇に置き、可能性に焦点を当てる思考モード へとチームを導く。問いの立て方次第で、解決策の方向性と質が大きく変わるのである。
1つのHMWから47のアイデアが生まれた
ある大手自動車メーカーの新規事業チームは、高齢者の移動課題に取り組んでいた。当初は「高齢者向けの自動運転シャトル」という解決策ありきで議論が進んでいたが、技術的制約とコストの壁に直面し、 チームの士気が低下 していた。
ファシリテーターの提案で、課題をHMW形式で再定義した。「 HMW:どうすれば高齢者が”移動しなくても”必要なサービスにアクセスできるだろうか?」この問いによって、移動そのものを前提としない解決策の議論が始まった。2時間のブレインストーミングで 47のアイデア が生まれ、最終的にオンライン診療と買い物代行を組み合わせたサービスが事業化に至った。
HMWを効果的に活用する3つの手法
1) 抽象度の調整:HMWの問いが広すぎると「どうすれば世界を良くできるか」のように焦点がぼやけ、狭すぎると「どうすればボタンの色を改善できるか」のように発想が制限される。 「チームが2時間で20個以上のアイデアを出せる粒度」 が適切な抽象度の目安である。2) 複数のHMWを並列で立てる:1つの課題に対して、角度の異なる3〜5個のHMWを作成する。たとえば「顧客の待ち時間が長い」という課題に対して、「HMW:待ち時間をなくすには」「HMW:待ち時間を楽しい体験にするには」「HMW: 待つ前に問題を解決するには」と多角的に問いを立てる。3) 投票で優先順位をつける:複数のHMWをチームで共有し、 ドット投票で「最も可能性を感じるHMW」 を選定する。全員が参加することで、チームの方向性への納得感が生まれる。
HMWワークショップの設計と運営方法
HMWワークショップは、90分のセッションとして設計するのが効果的である。最初の20分でカスタマーディスカバリーの調査結果を共有し、顧客の課題を全員で確認する。次の20分で、各自が 付箋にHMWの問いを3〜5個 書き出す。
続いて30分で壁に貼り出し、似たHMWをグルーピングしながらディスカッションする。最後の20分でドット投票を行い、 上位2〜3個のHMWを次のアイデア発想セッションのテーマ として決定する。重要なルールは「批判禁止」と「質より量」。どんな問いも否定せず、多様な視点を歓迎する姿勢が、HMWの効果を最大化する。
アイデア発想の「壁」にぶつかっているチームへ
HMWが特に有効なのは、以下のような状況にあるチームである。顧客の課題は明確になったが、 解決策のアイデアが出てこない、または既存の延長線上のアイデアしか出てこないチーム。チーム内で特定のメンバーの意見が支配的になり、 多様な視点が活かされていない と感じるファシリテーター。
また、アートシンキングと組み合わせることで、論理的な課題分析だけでは到達できない 飛躍的なアイデア を引き出すことも可能になる。HMWは特別な専門知識を必要としないため、部門横断のワークショップでも全員が対等に参加できる利点がある。
今抱えている課題を1つHMW形式で書き換えてみよう
HMWはデザイン思考の実践において、課題定義とアイデア発想をつなぐ最もシンプルで強力なフレーミング手法である。まずは今チームが取り組んでいる課題を1つ選び、 「どうすれば〜できるだろうか?」の形で書き換えてみよう。
1つの課題に対して最低3つのHMWを作成し、チームメンバーに共有する。「その問いは面白い」と言われるHMWが見つかれば、それがブレインストーミングの出発点になる。カスタマーディスカバリーで発見したペインをHMWに変換し、解決策の発想を広げることが、新規事業の次のステージへ進むための鍵となる。
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