人物概要
郷原邦男は、パナソニックホールディングスにおいてデジタル変革とスタートアップ共創を担うCTRO(チーフ・トランスフォーメーション・オフィサー)兼CVC推進室長である。2003年に松下電器産業(現パナソニック)に入社し、ネットワークエンジニアとしてテレビや録画機を中心としたクラウドシステム開発に従事した。家電と連携するサービス開発や新規事業立ち上げを経て、2021年10月よりCTROとして スタートアップやITプラットフォーマとの連携を担当している。
経歴
入社以来、郷原はパナソニックの家電製品とデジタルサービスをつなぐ技術開発の最前線に立ち続けた。テレビや録画機のクラウドシステム構築を通じて、ハードウェア中心の思考様式とソフトウェア・サービス的な発想の橋渡しを経験した。
2021年10月のCTRO就任は、パナソニックグループ全体のデジタルトランスフォーメーションを加速させる文脈で行われた組織再編に伴うものだった。CTRO傘下では、スタートアップ共創推進部とCVCファンドの一体運営体制が整備されており、郷原はこの体制のもとでパナソニックの外部連携戦略全体を統括している。
主な実績
郷原が主導する**「パナソニックくらしビジョナリーファンド」は、2022年7月に設立された。エネルギー・食品インフラ・空間インフラ・ライフスタイルの4領域を重点対象とし、5年間で80億円**の投資(運用期間10年)を実施する計画だ。
2024年5月には、それまでの社内公募型プログラム「Game Changer Catapult」の枠組みを刷新し、スタートアップとパナソニックの社員が共同で事業を作る「くらしビジョナリーコラボ」を開始した。CVCファンドの投資先スタートアップが共創パートナー候補となる「投資→共創」の一気通貫モデルは、郷原が構想し設計した仕組みである。
思想とアプローチ
郷原の投資・共創戦略を一言で表すキーフレーズが「飛び地ではなく隣接領域を狙う」だ。大企業のCVCが陥りがちな「話題の領域に広く薄く投資する」パターンを回避し、パナソニックが既に事業を持つ「くらし」の周辺領域に絞って投資対象を設定している。
この考え方の背景には、CVCにおける「スタートアップへの価値提供」を重視する姿勢がある。パナソニックがその領域に深い知見と顧客基盤を持つ場合にのみ、スタートアップに対して「ただの出資者」以上の価値を提供できる。逆に、自社に無関係な分野への投資は財務リターンを求めるVCと変わらず、CVC固有の意義が失われると郷原は指摘する。
「飛び地ではなく隣接領域を狙う。パナソニックが事業として取り組んでいる領域の周辺にある課題やチャンスに共鳴するスタートアップと組む。そうすることで初めて、私たちがスタートアップに本当の意味で価値を提供できる」
――郷原邦男(JBpress Innovation Review インタビュー)
インパクト
郷原が構築した「CVCファンド×事業共創推進部」の一体運営モデルは、パナソニックにおける外部連携の质を変えた。投資と共創を別組織が担う場合に生じがちな「投資したまま放置」という問題を構造的に解消し、出資から事業連携へのつながりを組織的に担保する体制を実現した。
パナソニックの新規事業創出において、社内発のイノベーション(GCカタパルト系譜)と外部との共創(くらしビジョナリーコラボ系譜)という二つのアプローチを共存させた点も郷原の貢献として評価される。100年企業が次の変革期を生き抜くための「探索の多様化」という観点から、両輪の体制設計は重要な意味を持つ。
関連項目
参考文献
- JBpress Innovation Review「『飛び地ではなく隣接領域を狙う』パナソニックCVC推進室長・郷原氏が語る新規事業開発への突破口」— https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/81770
- パナソニック「組織紹介 — CVC推進室」— https://www.panasonic.com/jp/about/cvc/members.html
- パナソニック公式プレスリリース「スタートアップ共創による新たな枠組みで新規事業創出の活動を加速」(2024年5月)— https://news.panasonic.com/jp/press/jn240527-1