概要
A-STARTERS(エー・スターターズ)は、味の素が 2020年3月に開始した社内新規事業創出プログラム である。味の素グループの社員であれば部署・職種・役職を問わず誰でも応募でき、採択されればビジネスリーダーとしてゼロから事業を立ち上げることができる。
食品メーカーとしてのブランド力と、130年以上にわたるアミノサイエンスの研究知見を武器に、 「食と健康」の領域を超えた新たな価値創造 を目指す。2030年までに新規事業を大きく成長させることを長期目標に掲げており、味の素グループの「ASV(Ajinomoto Group Shared Value)経営」を体現する重要な施策として位置づけられている。
「社員の『自分ごと化』から、社会課題を解決する新しいビジネスが生まれる」 ――味の素グループストーリー(味の素グループ, 2023年)
プログラムの仕組み
応募と選考プロセス
A-STARTERSは 年1回の公募制 で、味の素グループの全社員を対象にビジネスアイデアを募集する。第1期(2020年)では133件のテーマが集まり、第1期・第2期合計で約180件の応募、約500名がコミュニティに参加するなど、社内での認知と参加意欲は急速に高まっている。
選考は複数ラウンドで行われ、 書類審査→プレゼンテーション→事業化検証 と段階を踏む。特に重視されるのは「なぜあなたがやるのか」という起案者個人の原体験と熱量(Will)であり、市場規模の大きさだけでは通過できない。
事業化フェーズ
採択されたプロジェクトのリーダーは、通常業務を離れ 専任でビジネス開発に取り組む。実証実験やテストマーケティングを重ね、顧客ニーズの検証と事業モデルの構築を進める。味の素の研究開発リソースや既存の販売チャネルも活用できるため、スタートアップにはない「大企業ならではの武器」を持って戦える点が特徴である。
代表的な成果・卒業プロジェクト
LaboMe® ——「自分を大切にする」を日常に
A-STARTERS第1号案件として誕生した 「LaboMe®(ラボミー)」 は、女性のセルフケアのためのプロダクト&コミュニティサービスである。2023年8月にサービスを開始した。
起案者の橋麻依子氏は、自身が10年以上PMS(月経前症候群)に悩んでいた経験から「信頼できるセルフケア情報と、自分に合うプロダクトに出会える場」の必要性を痛感し、2020年にA-STARTERSに応募。133のテーマの中から採択された。
サービスの特徴は「 プロダクト×コミュニティ」の二軸構成にある。味の素の研究員が厳選したセルフケアプロダクトを毎月届けるサブスクリプションに加え、同じ悩みを持つ女性同士がつながるコミュニティ機能を提供。「孤独に悩まない」仕組みが、単なる物販とは異なる顧客価値を生み出している。
「アイデア提案から事業化まで約3年。その間に直面した『2つの谷』——PoC(概念実証)の壁と、PMF(プロダクト・マーケット・フィット)の壁——を乗り越えられたのは、味の素の技術力と、社内で応援してくれる仲間の存在があったから」 ――Incubation Inside(Incubation Inside, 2024年)
このプログラムの特徴・差別化
1. 食品メーカーの「科学力」を新領域に転用する発想
味の素の強みは、食品だけにとどまらない。アミノ酸をベースとした素材技術やバイオサイエンスの知見は、 ヘルスケア、美容、ウェルビーイング といった成長市場に直結する。A-STARTERSは、この「眠れる技術資産」を社員のアイデアで掘り起こし、新しい事業ドメインへ展開するための装置として機能している。
2. 「売れなくてもほめる」文化の醸成
味の素では、A-STARTERSと連動して 挑戦そのものを評価する表彰制度 も導入している。事業が成功したかどうかだけでなく、「どれだけ顧客に向き合ったか」「どんな学びを得たか」を組織として可視化・称賛することで、失敗を恐れず挑戦する文化の土壌を耕している。
3. 「2030年ロードマップ」との連動
A-STARTERSは単発のイベントではなく、味の素グループの中期経営計画における 「2030年までの事業ポートフォリオ変革」 と明確にリンクしている。経営戦略と新規事業創出が一体化しているため、採択されたプロジェクトは経営層の理解と支援を得やすい構造になっている。


