概要
Fujitsu Innovation Circuit(FIC)は、富士通が 2021年11月に開始したグループ全社向けの社内新規事業創出プログラムで、起業家精神の醸成と事業提案の実現を目的として設計されている。グループ社員2,500名以上が参加した実績を持ち、2024年には出向起業という形で最初のスタートアップ「BLUABLE」を独立させるに至った。
プログラムは大きく2フェーズで構成される。「Ignition(イグニション)」フェーズでは、参加社員が社会課題や自社技術の可能性に問いを立て、事業アイデアの仮説を組み立てる。このフェーズは起業家精神の育成に重点を置き、アイデアの良し悪しより「問いを立て続ける習慣」の形成を重視する。「Challenge(チャレンジ)」フェーズでは、具体的な事業計画を社内審査に提案し、通過した案件がリソースとサポートを受けながら検証を深める。
「FICで進めてきた研究・開発や事業内容に対して、出向起業スピンアウトキャピタル1号から関心が寄せられ、外部資金調達を実施した」
――富士通プレスリリース(2024年12月3日)
プログラムの仕組み
出向起業スキームとの接続
FICの最大の特徴は、優れた事業アイデアを持つ社員が「出向起業」という形で独立できる出口を制度として持つ点だ。出向起業とは、所属企業の籍を保持したまま外部から資金調達し、自ら起業した会社に出向する形で新規事業を推進するスキームで、経済産業省も支援策を整備している。
富士通社員が退職リスクを負わずに起業できるこの仕組みは、高スキル人材が「会社の籍を失いたくない」という心理的障壁から起業を諦めることなく、実際の起業家として活動できる環境を生み出す。BLUABLE代表・魚谷貴秀氏が同スキームを活用したことで、富士通は日本のIT大手で初の「出向起業スタートアップ輩出企業」となった。
富士通技術との連携設計
BLUABLEの事例が示すように、FIC由来のスタートアップは独立後も富士通の技術資産(海洋デジタルツイン・IoTセンサー・AI等)との技術連携を継続できる設計になっている。親会社が「投資家・技術提供者」として関与し続けることで、スタートアップは「ゼロから技術を積み上げる」コストを削減しながら、外部マーケットに向けた独自ビジネスを展開できる。
成果実績
2024年10月のBLUABLE誕生が FICから生まれた最初の出向起業スタートアップであり、「プログラム開始からスタートアップ誕生まで約3年」というタイムラインは、日本の大企業社内起業プログラムの中でも比較的速い実証サイクルと言える。BLUABLEは設立翌月に専門VCからシード投資を受け、全国16か所での実証実験を経てPMFフェーズに進んでいる。
また、FICとは別軸として2026年3月には「FUJITSU ACCELERATOR for Defense Tech」(防衛テック特化のアクセラレータープログラム)が開始された。FICが内部人材向けの事業創出に注力する一方、外部スタートアップとの共創は別チャネルで推進するという複線構造が富士通の新規事業戦略の全体像を示している。
参考文献
- 富士通プレスリリース「Fujitsu Innovation CircuitからBLUABLEが誕生」(2024年12月)
- Fujitsu Innovation Circuit公式ページ
- 日本経済新聞「富士通、出向起業スタートアップが誕生」(2024年12月)