不織布メーカーの「営業マン」が起こした変革
「 CAMP KITCHEN CLOTH 」は、高知県土佐市の不織布メーカー三昭紙業が開発した、キャンプ・アウトドア専用のキッチンペーパーである。同社の営業担当社員が高知県の社内起業家育成支援講座をきっかけに起案し、BtoB中心だった事業にBtoCの新たな柱を加えた。
三昭紙業は1974年創業の老舗不織布メーカーで、主にスーパーやドラッグストア向けのウェットティッシュ、クリーナーなどの産業用不織布製品を製造してきた。堅実な企業経営を続けてきたが、BtoB中心の事業構造では取引先の価格交渉力に左右されやすく、自社ブランドによる新市場開拓が課題であった。
起業家育成講座が生んだ「顧客発見」
転機は2019年、高知県が主催する「 社内起業家育成支援講座 」(AlphaDrive支援)への参加であった。同社の営業担当者がこのプログラムに参加し、自社技術のBtoC展開を模索し始めた。
プログラムでは「思い込みで商品を作らず、顧客の声から始める」という新規事業開発の基本を徹底的に叩き込まれた。起案者は 数百名を対象にアンケート調査 を実施し、「自社の不織布技術が最も価値を発揮するシーンはどこか」を探索した。調査結果は明確であった。最も需要が高く、既存製品では満たされていないシーンは「 アウトドア・キャンプ 」であった。
天然由来素材×高機能の製品設計
CAMP KITCHEN CLOTHは、三昭紙業の不織布技術の強みをキャンプシーンに最適化した製品である。通常のキッチンペーパーの 2倍の厚さ で抜群の吸水力を持ち、メッシュ構造により汚れが落としやすい。まな板の代替としても使える強度を備えている。
原料はすべて 天然由来素材 を使用し、スパンレース製法(水の力だけで繊維を絡ませる製法)で製造しているため、キャンプ場で燃やしても有毒ガスが発生しない。環境への配慮が求められるアウトドアシーンとの親和性が極めて高い。「食品鮮度保持機能」も備え、食材を包んでの保存にも使える多機能性を実現した。
成果と現状
CAMP KITCHEN CLOTHは2020年3月に発売開始し、Amazonなどのオンライン通販を中心に販路を拡大した。アウトドアショップへの卸販売にも展開し、BtoBオンリーだった三昭紙業に初のBtoC売上をもたらした。
さらに「燃やしても安全」「長期保存可能」という製品特性から、 防災備蓄品 としてのニーズも開拓。キャンプ市場だけでなく防災市場という第二の用途を見出すことで、売上の季節変動リスクを分散させている。地方の中小製造業が自社ブランドのBtoC商品で新市場を開拓した成功例として、全国的に注目を集めている。
この事例から学べること
第一に、BtoB企業がBtoC市場を開拓する際の「顧客発見プロセス」の重要性である。 三昭紙業は自社技術を起点にしながらも、「どのシーンで最も必要とされるか」を数百名のユーザー調査で定量的に見極めた。BtoB企業は顧客の声を直接聞く機会が少ない。だからこそ、BtoC進出時には「顧客発見」のプロセスに投資することが決定的に重要である。
第二に、地方自治体の起業家育成プログラムの実効性である。 高知県の社内起業家育成講座という「外部の仕組み」が、伝統的な地方中小企業に新規事業のメソドロジーを注入した。地方企業は新規事業の知見やノウハウが社内に蓄積されにくい。自治体やAlphaDriveのような支援機関との連携が、そのギャップを埋める有効な手段となり得ることを本事例は示している。
第三に、「用途転換」による新市場創出の威力である。 三昭紙業の不織布技術は何十年も前から存在していた。変わったのは「誰に、どのシーンで届けるか」だけである。技術そのものを革新するのではなく、既存技術の「使い先」を変えるだけで、全く新しい市場が生まれるというイノベーションの基本原理が凝縮されている。


