ダイキンのイノベーション戦略の核:「協創」とは何か
ダイキン工業は空調の世界市場でシェア首位を持つグローバル企業だ。そのような企業が、なぜ積極的に外部との共創を推進するのか。
その背景にある思想が「協創(Co-Creation)」である。単なるオープンイノベーションとは異なり、ダイキンの協創は「ライバルすらもファンにせよ」という内部論理に基づいている。空調技術の深い専門性を自前で維持しながら、AIやIoT、素材など隣接分野の知識は外部から取り込む「選択的開放」の戦略だ。
TIC:700名が集う「協創拠点」
テクノロジー・イノベーションセンター(TIC)は、2015年11月に大阪大学吹田キャンパス内に設立された。技術者約700名が集結し、大学・異業種企業・スタートアップとの共同研究を日常的に実施する体制を整えている。
TICの特徴は以下の3点に集約される。
外部との物理的な近接性:大学キャンパス内という立地により、研究者との非公式な交流が自然に発生する設計になっている。
共同研究の常設化:プロジェクト単位のスポット連携ではなく、継続的な共同研究体制を複数の外部機関と維持している。
技術多様性の確保:空調・冷凍機に加え、化学素材・電子部品・AI・IoTなど異なる専門性を持つ技術者が同じ拠点で活動する。
社内ベンチャー事例1:BaridiBaridi
BaridiBaridi株式会社は、ダイキン工業と東京大学発スタートアップ「WASSHA株式会社」の合弁で2020年6月に設立された会社だ。東アフリカ(タンザニアを中心とした市場)で、省エネエアコンを月額課金のサブスクリプション方式で提供するビジネスモデルを展開する。
名称はスワヒリ語で「冷やす」を意味する「baridi」を重ねた造語だ。
この事例の着眼点は、「空調普及率が低い未成熟市場」への参入手法にある。アフリカでは初期費用の高さがエアコン普及の障壁になっている。サブスクモデルで初期費用のハードルを下げ、省エネ機器を大量導入することで、ビジネスと環境負荷低減を同時に実現しようという設計だ。
社内ベンチャー事例2:point0
株式会社point0は2019年2月設立。ダイキン工業・パナソニック・ライオン・TOTO・オカムラ・日本精工・ソニーペイメントサービス・野村不動産・三井物産の9社が共同出資する「異業種コンソーシアム型社内ベンチャー」である。
ダイキンが持つ空間データ活用プラットフォーム「CRESNECT(クレスネクト)」を技術基盤とし、「未来のオフィス空間の創造」をミッションに掲げる。2019年7月には丸の内に実証オフィス「point 0 marunouchi」を開設し、空間センシングとデータ活用の実証実験を継続している。
BaridiBaridiが「地理的新市場(アフリカ)へのアプローチ」であるのに対し、point0は「既存オフィス市場のデータ化・価値転換」という別軸のアプローチであり、ダイキンが複数の事業化方向を同時並行で実験している点が特徴的だ。
ダイキン情報技術大学:人材戦略
2017年に大阪大学との連携で立ち上げた「ダイキン情報技術大学」は、空調技術に精通した独自のAI/IoT人材を社内育成する取り組みだ。2026年度末に社内デジタル人材2,000人を目標として掲げており、技術力の内製化と外部との協創を「矛盾なく並行させる」設計になっている。
外部との協創を進める一方で、社内の技術基盤は自前で強化し続ける。この「開放と強化の両立」がダイキンのイノベーション戦略の構造的な特徴である。