課題・背景
日本のEV普及率は2022年時点で新車販売の 約3% にとどまり、主要先進国の中でも大きく後れを取っていた。その最大のボトルネックは「充電インフラの不足」という不(Negative)である。ガソリンスタンドは全国に約3万か所あるのに対し、EV充電スポットの数は圧倒的に少なく、「充電できる場所が見つからない不安」がEV購入の最大の障壁となっていた。
しかし、一企業がすべての充電スタンドを自前で設置するのは莫大なコストがかかり非現実的である。従来型のインフラ整備モデルでは、EV普及のスピードに追いつくことは不可能だった。この構造的な課題に対して、全く新しいアプローチで挑んだのがパナソニックのeveriwaである。
なぜパナソニックが取り組んだか
パナソニックは創業者・松下幸之助の「水道哲学」以来、社会インフラとしての家電を提供してきた企業である。しかし、家電のコモディティ化が進む中で、「モノ売り」から「コト(サービス)」への転換が経営課題となっていた。脱炭素社会の実現というパーパスを掲げるパナソニックにとって、EV充電インフラは自社の技術力と社会的使命が交差する最適な領域だった。
「EVチャージャーのシェアリングサービス『everiwa Charger Share』は、EVチャージャーのホストとEVユーザーをつなぐシェアリングサービスで、EV普及によるカーボンニュートラル推進を目指します」
――everiwa Charger Share サービス開始(パナソニック ニュースルーム, 2022年10月)
GCカタパルト(Game Changer Catapult)の流れを汲むスピーディーな事業開発手法を採用し、完璧な製品を待つのではなく、MVPの段階から市場に投入してパートナーと共に育てるアプローチを選択した。
サービスの仕組み・差別化
everiwa Charger Shareの最大の特徴は、 「持っている人が、持っていない人に貸し出す」シェアリングモデル にある。EV充電器のオーナー(ホスト)は、自身の充電器をeveriwaに登録し、貸し出し可能な時間帯と価格を自由に設定できる。EVユーザーはアプリで近くの充電スポットを検索し、QRコードで決済・利用する。
ホスト側は 初期費用ゼロ で充電器のシェアを始められ、利用料金が副収入になる。この「資産の遊休活用」という仕組みにより、パナソニックが自社で充電スポットを全国展開する必要がなくなった。自社が「主役」ではなく「黒子(プラットフォーム提供者)」に徹する設計思想が、everiwaの差別化の核心である。
さらに、パナソニック製充電器に限定せず、他社製品にも対応を広げている点も重要だ。新電元工業のEV用「見せない普通充電器」との連携を 2024年夏 に開始し、設置場所の自由度を大幅に拡大した。
成長・成果
everiwaは2022年11月のサービス開始以来、共創パートナーシップを軸に着実にエコシステムを拡大している。主要な提携先は以下の通りである。
- みずほ銀行: EV購入やインフラ整備のためのファイナンスを提供
- 損保ジャパン: シェアリングに伴う事故・トラブルをカバーする専用保険を開発
- OKIクロステック: 全国 180拠点 のサポートネットワークを活用した充電器の保守・運用サービス
- 新電元工業: 壁面・天井・地面に自在に設置できるコンパクト充電器との連携
「OKIクロステックがATMやICT機器で長年培ってきた保守運用のノウハウ、および全国180拠点のサポートサービス網を活用し、『everiwa Charger Share』の充電スポット拡充を目指します」
――OKIとパナソニック、EV充電インフラシェアリングサービス分野で提携(OKI プレスリリース, 2023年11月)
自治体との連携も進み、公共スペースを充電スポットとして活用する地域活性化モデルも展開されている。
展開・進化
everiwaの次なる進化の方向性は「充電インフラ」から「エネルギーマネジメント」への拡張である。EVのバッテリーを蓄電池として活用するV2H(Vehicle to Home)やV2G(Vehicle to Grid)との連携が視野に入り、充電だけでなく「電力の双方向流通プラットフォーム」への発展が期待される。
パナソニックグループ全体では、EV関連事業を住宅(Homes)・エネルギー(Energy)・モビリティ(Mobility)の三位一体で捉えるビジョンを描いている。everiwaはその結節点として、充電という「点」のサービスから、くらし全体のカーボンニュートラルを支える「面」のプラットフォームへと進化する可能性を秘めている。
この事例から学べること
第一に、大企業の新規事業は「自前主義」を捨てることで加速する。 パナソニックはeveriwaにおいて、自社の充電器を売ることに固執せず、金融(みずほ)、保険(損保ジャパン)、保守(OKI)、他社製品(新電元)を組み合わせたオープンイノベーションのエコシステムを構築した。一つの企業では解決できない社会課題に対して、「黒子」としてプラットフォームを提供する姿勢が、競合すらもパートナーに変えている。
第二に、パーパスを掲げることは、戦略的な競争優位になる。「脱炭素社会の実現」という大義を明確に打ち出すことで、通常は協力を得にくい異業種企業や自治体からの参画を引き出している。単なる「儲かるビジネス」ではなく「社会を変えるプラットフォーム」として位置づけることが、エコシステム形成の推進力となっている。
第三に、アセットライトな拡大モデルは、大企業の「重さ」を克服する。 everiwaは自社で充電スポットを建設・所有するのではなく、個人や企業が持つ遊休資産を「つなげる」ことでスケールさせている。大企業の新規事業が陥りがちな「大規模投資→回収に時間がかかる→撤退」のパターンを回避し、リーンスタートアップ的な拡大を実現している。


