課題・背景:日本の地域交通崩壊と通信大手の資産活用
日本の路線バス・地方鉄道の維持危機は深刻で、運転手不足・利用者減少・コスト増大が重なり、多くの地方路線が廃止の瀬戸際に立っている。一方でNTTグループは、通信インフラ・AI処理・センシング技術という自動運転の実用化に不可欠な技術資産を保有しているが、モビリティ分野への展開は分散していた。
NTTは、グループ内のモビリティ関連技術と人材を専業会社に集約し、地域交通課題を事業機会として取り込むことを戦略として選択した。
取り組みの経緯:専業子会社による「技術集約型スピンアウト」
2025年11月に設立発表、同年12月15日にNTTモビリティ株式会社が正式に事業を開始した。資本金14.3億円でNTT100%出資。「人が移動でつながり続ける毎日へ」をビジョンに掲げる。
事業モデルの特徴はワンストップ支援型である。自治体や交通事業者に対して、自動運転サービスの選定・導入・運用管理まで包括的に支援する。自社で自動車を製造するのではなく、複数の自動運転プラットフォームの上でNTTグループの通信・AIをインテグレーションする「マルチベンダー戦略」を採る点が特徴的だ。
NTTは自動運転で「マルチ戦略」を追求する。トヨタ・ホンダなど4陣営の技術を一手に扱う。
― 日経モビリティ(2026年1月)
サービス・事業の仕組み:共創ハブと段階的ロードマップ
2026年2月にはNTT武蔵野研究開発センタ内に「Co-Creation Hub」を開設し、自治体・交通事業者との協業を常設拠点で推進する体制を整えた。
ロードマップは明確な段階目標を持つ。2028年度には路線バス領域での自動運転レベル4(特定条件下での完全自動)実証の開始を計画。2030年代には1000台以上の自動運転車両の運行支援を目標に掲げる。売上高は2030年に数百億円規模を想定している。
この事例から学べること
- 大企業内に分散する技術資産を専業子会社に集約する「技術集約型スピンアウト」は、R&D投資の効率化と事業責任の明確化を同時に実現する
- 社会課題(地域交通崩壊)を事業機会として定義することで、自治体・行政との連携が組みやすくなり、先行して実績を積める市場環境を構築できる
- 特定ベンダーへの依存を避けたマルチ戦略は、急速に変化する自動運転プラットフォーム競争において機動性を保つ現実的なアプローチとなる