課題・背景:コア事業集中とノンコア分離の板挟み
レゾナックHDは、2023年の旧昭和電工→レゾナック改称以降、半導体・電子材料への集中を中期経営の軸に据えてきた。後工程材料(CMP用スラリー・先端パッケージング素材)は市場成長が続き、2026年1〜3月期に前年同期比126.4%の大幅増益を記録するほど好調だった。
一方で、石油化学事業(クラッカーを中心とするコンビナート事業、大分市)は収益変動が大きく、半導体材料との投資判断軸が根本的に異なる。本体に抱え続けることで、経営資源の集中も投資家コミュニケーションも複雑化するという課題が経営陣に強く意識されていた。
取り組みの経緯:税制改正が後押しした決断
パーシャルスピンオフへの道を開いたのは、日本の税制改正の積み重ねである。2023年度の税制改正で認定株式分配(パーシャルスピンオフ)の枠組みが整備されたが、当初は「スピンオフ先が新事業活動を行う」ことが要件とされており、石化のような既存事業分離には使いにくかった。
この壁を崩したのが令和8年度税制改正(2026年施行)による**「新事業活動」要件の廃止である。ノンコア事業の切り出しによる事業ポートフォリオ組替えも支援対象として明確に認められ、レゾナックは改正後の2026年4月に即座に税制適格申請**を提出した。
クラサスケミカルとしてやっていける。1社で独立した事業会社として機能する。
― レゾナック 高橋秀仁社長(ダイヤモンド電子版、2025年)
サービス・事業の仕組み:分離構造と株主への現物配当
スピンオフの構造は以下の通りである。①レゾナックHDがクラサスケミカル株式のうち20%未満を引き続き保有。②残り80%超の株式は既存のレゾナック株主に現物配当として按分される。③クラサスケミカルは東証スタンダード市場に独立上場し、外部投資家から独自に資金調達できる地位を得る。
クラサスケミカルはDOE(株主資本配当率)5%超を目標とする高配当政策を掲げ、安定した株主還元で個人投資家の獲得を狙う方針である。大分コンビナートの地産地消型石化という比較的安定した収益構造が、高配当モデルを支える。
成果と現状:制度活用の先行事例として注目
2026年5月の東証スタンダード上場申請は、令和8年度改正後の新制度適用の最初期事例として業界・政策立案者の双方から注目される。パーシャルスピンオフは2025年のソニーFGに続く事例だが、既存収益事業の分離という文脈ではレゾナックが実質的な先行モデルを示した。
レゾナック本体では上期業績の上方修正が行われ、半導体材料への集中投資の効果が現れ始めている。
この事例から学べること
- 税制改正への機動的対応が事業再編の実行可能性を左右する。制度変更を待って実行するだけでなく、改正内容を予見した準備が功を奏した
- 「1社独立」を前提にした分離設計が重要。親会社依存が続く形では、投資家・人材ともに独立会社としての魅力が薄れる
- コア事業への集中と既存事業の独立自律という二重の価値創造が、ポートフォリオ再編に求められる論理的根拠となる